明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『船冨家の惨劇』 蒼井雄

船富家の惨劇:蒼井雄 1936年(昭11)春秋社刊。 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集第9(坂口安吾・蒼井雄集)所収 昭和初期、春秋社の懸賞小説で一等を獲得した作品だが、作者の蒼井雄はプロの作家とはならず、会社員としてのキャリアを全うし、こ…

『悪魔を買った令嬢』 川口松太郎

悪魔を買った令嬢:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 1949年(昭24)1月~12月 雑誌「スタイル」連載。 川口松太郎の現代小説の一作。彼は通俗小説の大家と呼ばれたが、小説というものが「何かを物語るもの」という本質を有するかぎり、快筆をふる…

『尼崎里也女:丸亀女傑』 石川一口

続編『怪婦丸亀大仇討』 春帆楼白鷗 尼崎里也女:石川一口、鈴木錦泉 画 1910年(明43)積善堂刊。 1916年(大5)樋口隆文館刊。 石川一口(いっこう)は江戸時代から続く講釈師の石川派の五代目として明治後期に活躍した。生没年、本名など不詳。口演速記本…

『恋の魔術』 江見水蔭

恋の魔術:江見水蔭1 1919年(大8)樋口隆文館刊、前後終全3篇。 大正期のロマン伝奇小説。江見水蔭の軽妙な筆運びがグイグイ読ませてくれる。甲州韮崎から山奥に入ったラジウム鉱泉の星飛村が冒頭の舞台。山歩きで遭難しかけた青年が這う這うの体で一軒の…

『木乃伊の口紅』 田村俊子

木乃伊の口紅:田村俊子 1914年(大3)牧民社刊。 「木乃伊(ミイラ)の口紅」という題名が妙に気にかかっていたので読もうと思った。田村俊子は幸田露伴に弟子入りした純文学作家である。季節や事物への感受性が繊細かつ鋭敏で、文章に重みを感じた。共に文…

『日の丸太郎:豪傑小説』 三宅青軒

日の丸太郎:三宅青軒2 1908年(明41)大学館刊。前後全2巻。 副題に「豪傑小説」と銘打った明治の壮士が活躍する話。東京二六新聞に連載。主人公の日の丸太郎という名前からしてお伽話めいているのだが、いきなり上野の花見の場に現れて国粋論を演説する。…

『青春売場日記』 獅子文六

青春売場日記:獅子文六 1937年(昭12)春陽堂、新作ユーモア全集 第10巻所収 獅子文六(1893~1969)の中篇「青春売場日記」を中心とするユーモア小説の中短編集。昭和初期の東京でデパートの女店員(ヂョテさん)の採用試験に応募した二人の女性がふとした…

『蘆江怪談集』 平山蘆江

蘆江怪談集:平山蘆江 1934年(昭9)岡倉書房刊。 平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知られている。 彼の文体は平静沈着な語…

『火葬国風景』 海野十三

火葬国風景:海野十三 1935年(昭10)春秋社刊。 海野十三(1897~1949)は昭和初期から終戦直後にかけて活躍したが、当初は探偵小説家としての作品が多かった。この一冊は単行本としての四番目の作品集で、表題作「火葬国風景」の他に8篇収められている。…

『踊子殺人事件』 武田武彦

踊子殺人事件:武田武彦 1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。 武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文…

『悪魔の弟子』 浜尾四郎

1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16巻所収。 浜尾四郎の作家としての活動は6年間しかなかったが、その最初期の3作品を読んだ。 『悪魔の弟子』 片や裁判所の判事、片や殺人犯。獄中から少年期に兄のように慕っていた判事に宛てた長文の手紙のスタ…

『慶安水滸伝』 村上元三

慶安水滸伝(上巻):村上元三 1953年(昭28)1月~10月、時事新報、大阪新聞で連載。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、上下2巻。 江戸初期の由井正雪の乱を記した史書「慶安太平記」は後世に講談や歌舞伎、絵草紙などに形を変えて取り上げられていた…

『その名は女』 大林清

その名は女:大林清 1955年(昭30)1月~7月、中部日本新聞、西日本新聞に連載。 1955年(昭30)大日本雄弁会講談社刊。(ロマンブックス) タイトルの由来は、シェークスピアの「ハムレット」中のセリフ「弱き者よ、汝の名は女なり」だと思われる。事業の失…

『君は花の如く』 藤沢桓夫

君は花の如く:藤沢桓夫 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)東京タイムス紙連載。 1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。 1962年(昭37)東方社刊。 大阪の化粧品会社で働くヒロインの朝代には暗い過去があった。東京で男に翻弄される生活を断ち切るために単…

『窓』 山本禾太郎

窓:山本禾太郎 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集第17篇所収。(4篇) 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集、第35巻所収。(2篇) 山本禾太郎(のぎたろう、1889~1951)は「新青年」に『窓』が入選したのを機に作家活動に入った。戦前期における…

『呪いの塔』 横溝正史

呪ひの塔:横溝正史 1932年(昭7)新潮社、新作探偵小説全集第10巻所収。 軽井沢に設定された空間迷路の観光施設「バベルの塔」が舞台。雑誌社の社員由比耕作は人気ミステリー作家の大江黒潮から別荘に招かれる。そこに出入りする人々にはそれぞれ入り組んだ…

『時代の霧』 竹田敏彦

時代の霧:竹田敏彦 1937年(昭12)3月~11月、読売新聞連載。 1939年(昭14)大都書房刊。 モダニズム文化の活況を呈していた昭和初期から日中戦争の暗い影が世相に及ぼし始める時代に、若い二組の男女の恋愛曲線が互いに交叉し、変容していく様を描いてい…

『伊達騒動』 沙羅双樹

伊達騒動:沙羅双樹 1954年(昭29)6月~1955年(昭30)1月、東京日々新聞連載。 1955年(昭30)同光社出版刊。 自分の育った郷里の歴史上の事件として有名であり、見過ごせないと思っていた。事件を取り扱った類書は数多あって、山本周五郎の「樅ノ木は…」…

『頭の悪い男』 山下利三郎

日本探偵小説全集:改造社版、第15篇(山下・川田集) 1930年(昭5)改造社、日本探偵小説全集 第15篇(山下利三郎・川田功集)14篇所収 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 4篇所収 山下利三郎(1892~1952)は大正後期の雑誌「新青…

『浮れてゐる「隼」』 久山秀子

隼の勝利:久山秀子 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 6篇所収。 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16篇(浜尾・久山集)15篇所収。 久山秀子は「隼のお秀」と呼ばれる女掏摸(スリ)であり、何人もの手下を抱えている。身…

『岩見重太郎』 柴田南玉

岩見重太郎:柴田南玉 1902年(明35)求光閣刊。 1910年(明43)春陽堂、家庭お伽話第27篇所収。 岩見重太郎は怪力無双の剣客として江戸時代から講談や絵草紙で親しまれてきた人物である。明治の講談筆記本はこの本だけに限らず、多くの演者によって出されて…

『影人形~釘抜藤吉捕物覚書』 林不忘

影人形~釘抜藤吉捕物覚書:林不忘 1955年(昭30)同光社刊、11篇所収。 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集第25巻新進作家集に5篇所収(うち4篇は重複) 最初は大正14年3月から雑誌「探偵文芸」で連載が開始された。岡本綺堂の「半七」ばりの江戸情…

『浮雲日記』 富田常雄

浮雲日記:富田常雄 1952年(昭27)湊書房刊。 1955年(昭30)東方社刊。 明治中期の自由民権運動から日清戦争に向けて、まだ日本の近代化が形を成すに至らない時代の青春群像を描いている。武芸全般を修めた主人公の春信介は、身体一つで上京するが、すぐに…

『不連続殺人事件』 坂口安吾

不連続殺人事件:坂口安吾、高野三三男(画) 1947年(昭22)初秋号~1948年(昭23)7月号、雑誌「日本小説」連載 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集 第9巻所収 不連続殺人事件:坂口安吾1 終戦直後に創刊された雑誌「日本小説」に連載された坂口安…

『風雲一代男 奇傑金忠輔』 野村胡堂

風雲一代男 金忠輔:野村胡堂 1951年(昭26)湊書房刊。 1959年(昭34)川津書店刊。表題を「天竺浪人金忠輔」と変えている。 江戸中期、文化文政年間に実在したとされる仙台藩の浪人、金忠輔(こん・ちゅうすけ)の破天荒な事績を小説化したもの。金(こん…

『新聞小説史(大正篇)』 高木健夫

新聞小説史(大正篇):高木健夫 1974年(昭49)1月~1976年(昭51)10月、雑誌「新聞研究」第270号~第303号連載(うち288号、289号は休載)全32回 日刊新聞に連載された小説の種類と数とがおびただしいものだったことを本書によって改めて知らされた。その…

『君失うことなかれ』 富田常雄

君失うことなかれ:富田常雄 1953年(昭28)東方社刊。 1958年(昭33)東京文芸社、富田常雄選集第8巻所収。 タイトルの「失ってほしくない」と願うのは、女性の心と身体の両方の処女性と言えるものを指していると思われる。ここでも終戦直後の東京郊外の世…

『白猫別荘』 北村小松

白猫別荘:北村小松 1948年(昭23)新太陽社九州支社刊。 怪奇小説集と銘打った短編集全9篇を収める。終戦直後の刊行で版組や用紙が粗悪のため、印字も不鮮明で読みにくい。怪奇趣味というよりも、人間心理の奥底にある不可解なものを完全には否定も肯定も…

『花ふたたび』 阿木翁助

花ふたたび:阿木翁助 1956年(昭31)桃源社刊。 阿木翁助(1912~2002) は戦後昭和期のラジオ・テレビの脚本家として知られた。あとがきによると、この作品は連続ラジオ・ドラマとして全国21局で昭和30年6月から約1年半、433回にわたって放送され…

『鳴門秘帖』(上巻)吉川英治

鳴門秘帖:吉川英治 1927年(昭2)大阪毎日新聞社刊。 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集第9巻所収。 1939年(昭14)新潮社刊。 鳴門秘帖:吉川英治、岩田専太郎1 『新聞小説史』で、吉川英治の出世作『鳴門秘帖』も新聞小説として大正末期から昭和にか…