翻訳・翻案物
黄薔薇:三遊亭円朝 1887年(明20)金泉堂刊。 1926年(大15)春陽堂、円朝全集 巻の七 「欧州小説・黄薔薇」(くわうしやうび/こうしょうび)と銘打っての口演速記本なのだが、当時まだ聴衆や読者には西欧の事物について見聞きしたことがない人がほとんど…
薔薇夫人:竹田敏彦 1952年(昭27)向日書館刊。 1957年(昭32)東方社刊。 旧華族の邸宅を買い取って高級中華料理店「薔薇園」を営む女主人の葉山貴志子の謎めいた行動が興味を引く。しかしながら物語はいきなり戦前の中国に舞台を移す。青島で日系のマッチ…
世界風流艶笑譚:石井哲夫 1950年(昭25)4月~1951年(昭26)12月、雑誌「富士」連載。 1955年(昭30)妙義出版刊。(スマイル・ブックス) 世界風流好色譚:沢田正太郎・画1 当初「富士」連載のタイトルは『世界風流好色譚』となっていた。好色譚という面…
世界名探偵苦心録:安東鶴城 1913年(大2)フース・フー・イン・ジャパン社刊。 20世紀初頭における米英を中心とした警察機関で活躍した実在の名探偵たちの事例集。底本としては当時の「ポリス・ストーリーズ」などとして発行されていた実話雑誌の記事から…
恐ろしき生涯:ヴァロットン Vallotton 1927年(昭2)7月、9月、12月 雑誌「女性」に掲載。 作者のフェリックス・ヴァロットン (Félix Vallotton, 1865~1925) は後期印象派の影響を受けながら、ナビ派に参加し、画家、木版画家、美術評論家として活躍した。…
林中之罪:菊亭笑庸 1894年(明27)今古堂、探偵文庫 第九篇~第十篇 前後2巻。 菊亭笑庸(きくてい・しょうよう、生没年とも不明)は黒岩涙香に追随するように海外の探偵小説の訳述に活躍した。他の多くの翻案作家たちと同様に彼らの存在はそれぞれの版元…
生首美人:ボアゴベ 1949年(昭24)1月、雑誌「苦楽」に掲載。 水谷準は戦前から戦中期にかけて長らく雑誌「新青年」の編集長として名を知られたが、探偵作家としても活躍するとともに仏文科の語学力を生かして、フランス物の推理小説の翻訳も多く手掛けた。…
涙美人:丸亭素人 1892年(明25)今古堂刊。 丸亭素人(まるてい・そじん)(1864-1913)は記者作家の一人だが、黒岩涙香とほぼ同世代で、涙香が確立した西洋小説本の訳述業にまるで「二匹目の泥鰌」のように追随して活躍した。涙香が中断した連載物の「美人…
鉄仮面:江戸川乱歩 1940年(昭15)博文館刊。久生十蘭・訳。 1938年(昭13)大日本雄弁会講談社刊。江戸川乱歩・訳。 フランス史における「鉄仮面」の史実はルイ14世時代の奇妙な謎としてデュマやボアゴベをはじめ多くの作家たちの創作欲を搔き立てた。名…
人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多…
涙香 指環 1889年(明22)金桜堂刊。原作はフォルチュネ・デュ・ボアゴベ (Fortuné du Boisgobey, 1821~1891) の新聞連載小説『猫目石』(L’œil de chat) だが、涙香は元々の仏語から英訳された本からの重訳で記述していた。発表から1年後には和訳が出版さ…
(うらおもてふたつだま・すぺいんきだん) 1896年(明29)11月~1897年(明30)6月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。 邑井貞吉(むらい・ていきち, 1862-1902)は講談師の名跡を父邑井一から継承し3代目として活躍していた。円朝や涙香による西欧読…
1908年(明41)大学館刊。小原夢外という作家名についてはほとんど情報が見つからなかったが、下掲のブログ記事により小原柳巷 (1887-1940) と同一人物であったことがわかった。明治末期の20代に夢外、大正時代の30代に柳巷、そして昭和初期には流泉小史…
1928年(昭3)改造社刊。世界大衆文学全集第8巻。森下雨村訳。いわゆる円本時代に各社から出された全集本の一つ。フレッチャー (J.S.Fletcher, 1863-1935) はイギリスの小説家。広範囲なジャンルでの作家活動で知られたが、推理小説がメインであったと思われ…
1990年(明23)今古堂刊。原作はエミール・ガボリオ(Emile Gaboriau, 1832-1873) の『オルシヴァルの犯罪』(Le Crime d’Orcival, 1866) というフランスの新聞連載小説である。原作では名探偵のルコックが活躍するが、多湖廉平(たこれんぺい)に置き換えられ…
1901年(明34)扶桑堂刊。前後続篇の全3巻、萬朝報の新聞連載で124回。 当初はベンヂソン夫人(Mrs.Bendison) 原作、野田良吉訳、黒岩涙香校閲という表記であった。しかしまず英国作家でベンヂソンという人物は探し出せず、原作も不明だった。また野田良吉は…
1912年(大1)今古堂刊。かつて愛読した「半七捕物帳」の作者岡本綺堂は40代以降に精力的に作家活動に入った。「半七」を生み出す前には探偵物や怪奇物を書いていた。この作品は米国の映画のノベライズ物だが、序文を見る限りシナリオから翻訳して読み物に…
1912年(大1)文成社刊。文成社は偉人伝、処世法、実用書などの出版物が多かった。森蜈山(ござん)による訳書はこの一点しか知られていないが、明治末期におけるホームズ物の翻訳の貴重な例証になっている。文体もこなれていて読みやすい。最初はタイトルが…
1891年(明24)今古堂刊。(こくあんき)原作者は明らかにされていないが、作風からするとボワゴベではないかと推察する。丸亭素人(まるてい・そじん)は黒岩涙香と肩を並べるほどの訳述者で、文体も似通っている。パリとその郊外の町を舞台に、田舎町に隠…
1922年(大11)金剛社刊。松本泰秘密小説著作集第2編。ロンドンの古い趣のある一軒家に住むことになった日本人家族の物語。書き下ろしの出版と思われる。中間部にこの屋敷にまつわる恋愛がらみの別個の物語がまるで枠物語のように組み込まれている。筆者自…
1885年(明18)速記法研究会刊、8分冊。 1991年(明24)上田屋刊。「黄金の罪」(こがねのつみ) 1927年(昭2)春陽堂刊、円朝全集巻の九。 明治中期になって、坪内逍遥の「当世書生気質」や円朝の速記本などによって言文一致体への動きとともに文学の充実…
1900年(明33)駸々堂刊。前後2巻。インド帰りの英国人技師と彼を恋い慕って密航してきたインド族長の娘、ヒロイン摩耶子の物語。原作者が明記されない英国の小説からの翻案だが、人物を和名に変えた以外はほぼ現地の地名で、風物・習慣の描写もそのままで…
(つきにむらくも)1916年(大5)樋口隆文館刊。前後2巻。台湾から帰任したばかりの軍人の父親が謎の失踪を遂げる。さらに養育してくれた叔父夫婦が中国に移住したため、ヒロインの清江は身寄りもなく、鵠沼の寺に預けられる。と、ここまではよくある悲劇小…
1892年(明25)扶桑堂刊。フランスの作家ボワゴベ(Boisgobey) による『ルコック氏の晩年』(La Vieillesse de Monsieur Lecoq) を黒岩涙香が英訳本から重訳したもの。日本の読者向けに人名を日本人名に置き換えたり、事物を日本の習慣に直すなど、翻案に近い…
1913年(大2)磯部甲陽堂刊。表題作「密封の鉄函」など4作の短編集。読みだしてからわかったのだが、二つ目の「海賊船の少年」を含め、少年向けの探偵・冒険譚であり、後年の江戸川乱歩の少年向けシリーズと共通する空気感があって懐かしい感じがする。「怪…
1887年(明20)金松堂刊。維新後20年経過して世情が安定してきた頃に、西欧思想を一般国民に教化させる目的で多くの翻訳物が出版された。この小説もその一つで、ロシアに住む三兄弟がナポレオン軍の遠征によって離れ離れとなり、多くの艱難の末にシベリア…
1911年(明44)万里洞刊。明治41年に創刊の日本初の週刊誌「サンデー」に連載されたフランスの中短編の翻訳を3つまとめて単行本で出した。最初の『恋の仇討』は軽妙な作風で当時人気のあったポール・ド・コック(Paul de Kock, 1793-1871) の中篇(原題名不…
1911年(明44)日曜世界社刊。タイトルと草履と和服の男の子の表紙絵から見て、日本の民話か何かだろうと思って読みだしたら、西洋の宗教訓話だった。作者はメアリー・シャーウッド(Mary Sherwood, 1775-1851) 19世紀英国の児童文学作家だった。年代的には…
1887年(明20)イーグル書房刊。これもボッカチオ(ボッカス)の「デカメロン」からの一話を翻訳し、多少手を加えて中篇としたもの。菊亭静は、高瀬羽阜(うこう)の多くの筆名の一つとしてウィキペディアに掲載されている。彼はジャーナリストの他、社会事…
(えんおう=オシドリ)1887年(明20)高崎書房刊。ボッカチオの「デカメロン」中の一話を菊亭静(きくてい・しずか)が翻案、訳述したもの。西洋文学の翻訳としては維新後早い方に当たる。飛びぬけた美女が裕福だがとてつもなく醜い男とやむを得ず結婚して…