記者作家系
魔性の女:小川煙村 1912年(明45)九葉堂刊。 小川煙村(えんそん、1877~1952)は新聞の記者作家として出発し、明治後期から昭和戦中期まで小説、戯曲、歴史書などを書いた。 この作品は、芸妓や愛妾として気ままに暮らす美貌の女お艶によって次々とメロメ…
怪談驟雨:蛙声堂主人 1889年(明22)吉田博声堂刊。 (くわいだん・にはかあめ)副題として「一名:四つ手の尼」と出ているので最初から化物譚だろうと想像がつく。作者は蛙声庵(あせいあん)主人となっているが、京都の新聞社の作家記者と思われる。当初…
新聞小説史(昭和初期):高木健夫 1976年(昭51)11月~1978年(昭53)2月「新聞研究」304号~319号に〈昭和初期〉を連載。 1978年(昭53)3月~1981年(昭56)4月「新聞研究」320号~357号に〈昭和中期〉を連載。 明治篇から通算すると131回の連載だっ…
外相の奇病:神秘探偵、永代静雄 1919年(大8)実業之日本社刊。 永代静雄(ながよ・しずお、1886~1944)は作家としてよりも、明治文学史研究における田山花袋の『蒲団』の登場人物のモデルの一人として注目され、その生涯が「微に入り細に入り」詮索され続…
ミイラの招待:戸川幸夫 1958年(昭33)和同出版社刊。 動物文学者としてのほうが有名な戸川幸夫(1912~2004)は戦後昭和期に幅広い分野で作家活動を行った。この作品は探偵活劇仕立てになっている。 東京の奥多摩にある日原鍾乳洞を見学に行った仲良し三人…
タケノコ夫人行状記:宇井無愁 1955年(昭30)和同出版社刊。 宇井無愁(うい・むしゅう、1909~1992)は戦後昭和期の大阪の劇作家および小説家。筆名がフランス語の「ウィ、ムッシュー」(Oui, Monsieur.=はい、旦那様)から来ているのは誰でもわかる。主に…
黒牡丹:根本吐芳 1903年(明36)青木嵩山堂刊。 日清戦争講和後の清国における混乱した政変の動きを遠景に、若い男女の活劇譚を描く。ヒロインの英子は政争で日本に亡命した清国人夫婦の子供で、両親の死後養親に育てられ、表面上は日本女性と変らない。彼…
血染の短刀:三品馨園 1917年(大6)樋口隆文館刊。 三品馨園(みしな・けいえん、1857~1937)という明治大正期の作家については検索してもあまり情報が得られない。わずかにGoogle Books で明治期の文芸回想集等のいくつかに記述が見られた。 「三品は蘭湲…
封人窟:渡辺黙禅1 1915年(大4)樋口隆文館刊、前後終編全3巻。 明治大正期の長篇小説の大家の一人、渡辺黙禅の一作。新聞小説を各紙に何本か掛け持ちで連載していたらしく、同じ年に単行本として何点もの長篇(2分冊、3分冊)を出していた。作風は多数の…
蘆江怪談集:平山蘆江 1934年(昭9)岡倉書房刊。 平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知られている。 彼の文体は平静沈着な語…
血風呂:平山蘆江 1934年(昭9)非凡閣、新進大衆小説全集第20巻 平山蘆江集 所収。 平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知ら…
涙美人:丸亭素人 1892年(明25)今古堂刊。 丸亭素人(まるてい・そじん)(1864-1913)は記者作家の一人だが、黒岩涙香とほぼ同世代で、涙香が確立した西洋小説本の訳述業にまるで「二匹目の泥鰌」のように追随して活躍した。涙香が中断した連載物の「美人…
因果華族:安岡夢郷 1917年(大6)大川屋書店刊、みやこ文庫第1編「因果華族」 1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第2遍「馬丁丹次」 1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第3編「雪見野お辰」 探偵活劇と悲劇小説をミックスしたような物語構成…
新聞小説史(明治篇):高木健夫 1970年(昭45)4月~1973年(昭48)12月、雑誌「新聞研究」連載、全45回。 1974年(昭49)国書刊行会刊。 国会図書館デジタル・コレクションでは、雑誌「新聞研究」に連載されていたので、毎日1号ずつ読むのが楽しみとなっ…
皿屋敷:新説怪談 芳尾生 1913年(大2)『皿屋敷』と『後の皿屋敷』の全2巻、樋口隆文館刊。 有名な怪談「皿屋敷」の「いちまぁ~い、にまぁ~い」の話かと思って読みだしたが、中身はまったくホラー味のない下剋上の謀反史談だった。もともと姫路の「播州…
人情世界 (1901) 1901年(明34)3月~10月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 華族令嬢愛子2 明治後期の読物雑誌「人情世界」(旬刊)に長期間にわたって連載された構想の大きい探偵活劇。地の文は美文調の文語体、会話は口語体という、言文一致体の定着…
ノア1 1950年(昭25)2月~4月 雑誌「富士」連載。『ノア』 1949年(昭24)7月 雑誌「富士」掲載。『三界萬霊塔』 戦後に復刊したと公言する一般大衆向けの文芸雑誌「富士」は国土の復興を目指す人々の旺盛な読書慾を満たして大いに販売数を伸ばした。版元…
奴之助 悪魔1 1911年(明44)嵩山堂刊(すうざんどう)(青木嵩山堂から社名を変更したらしい) 題名から想像して、犯罪小説かと思って読み始めたが、明治期の悲劇小説の部類だった。「悪魔」と題したのは恋人に振られた画学生が、恨みつらみを込めてその恋…
涙香 指環 1889年(明22)金桜堂刊。原作はフォルチュネ・デュ・ボアゴベ (Fortuné du Boisgobey, 1821~1891) の新聞連載小説『猫目石』(L’œil de chat) だが、涙香は元々の仏語から英訳された本からの重訳で記述していた。発表から1年後には和訳が出版さ…
松五郎捕物帳 1935年(昭10)松光書院刊。作者の栗島狭衣(くりしま・さごろも)(1876~1945) は劇作家の岡本綺堂とほぼ同年代だったが、20代は朝日新聞の記者であるとともに文士劇の主要メンバーとして活動した。30代からは一座を組んで俳優として活動し、…
夜叉夫人1 1897年(明30)聚栄堂刊。書名『夜叉夫人』、作者名:樋口二葉(ふたば) 1910年(明43)晴光館刊。書名『鮮血淋漓』、著者名:樋口新六 (靄軒居士) 1911年(明44)日吉堂刊。書名『意外の秘密』、著者名:やなぎ生 樋口二葉(ふたば)(1863~19…
1919年(大8)春江堂刊。前後2篇。作者の大橋青波(せいは)は名古屋の新聞社の記者として働く傍ら、作家として小説を書く健筆家として知られていたが、生没年や経歴はほとんど不明。その後上京して作家として独立したらしい。古巣の名古屋の新聞界とは繋が…
1897年(明30)9月~1898年(明31)2月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 講談速記本の形になっているが、演者の菊水舎薫(きくすいしゃ・かおる)は元々主筆の高橋翠葉(恋菊園)の門人だったのが、大阪に行って講談師の資格を取り、東京に戻ってきた…
1960年2月~12月 雑誌『読切倶楽部』連載。 1961年(昭36)東京文芸社刊。 藤井重夫(1916-1979)は復員後、新聞記者を経て作家活動に入った。世代的には戦中派になる。一度芥川賞候補となる。この作品は戦後期の服装学院に通う若い女性三人組を中心とした青…
1914年(大3)樋口隆文館刊。前後終全3篇。表題は神社の縁起由来記のように思われるが、中身は江戸時代初期の史伝上の人物、佐久間甚九郎の半生記である。作者中村兵衛は神戸又新日報の文芸部記者である傍ら、「書き講談」の口調で読みやすい多くの小説を書…
1939年(昭14)大日本雄弁会講談社刊。三角寛はライフワークの「山窩(サンカ)」に関する研究と著作に関わる以前は、朝日新聞の記者としてサツ回りの担当で刑事たちとの交遊が深かった。その折々に得られた刑事の体験談をもとに、得意の筆をふるった6つの…
1907年(明40)大学館刊。大学館という版元は冒険活劇から奇怪なミステリー風の読物に至るまで多数出版していた。これは東京の芝公園弁天池を巡る奇譚。日露戦争が勃発し、軍人たちには出征が目前に迫っていた。若い陸軍大尉は伯爵令嬢と結婚式を挙げる予定…
1908年(明41)大学館刊。小原夢外という作家名についてはほとんど情報が見つからなかったが、下掲のブログ記事により小原柳巷 (1887-1940) と同一人物であったことがわかった。明治末期の20代に夢外、大正時代の30代に柳巷、そして昭和初期には流泉小史…
1908年(明41)如山堂刊。作者の水谷不倒は本来国文学者として有名で、浄瑠璃研究や江戸文学についての著作集を出している。40代までは大阪朝日新聞社の記者として新聞連載小説を書いていた。「千軒長者」も人形浄瑠璃の外題になっている「山荘大夫」(山…
1908年(明41)精華堂刊。前後2巻。都新聞に連載。白菊御殿と呼ばれる華族の伯爵家の騒動を描いたものだが、登場人物のどれをとってもピリッとした所のない、生半可な者ばかりなのが他に例を見ないほど印象に残る。中心となる当主の伯爵も本来謹厳なところ…