1889年(明22)自由閣刊。当初「やまと新聞」に連載。作者の一筆庵可候(「一筆書こう」から来ているらしい)は黒岩涙香と萬朝報の創刊に協力した。文章の記述は漢文調から抜けきれないが、口語調と混じり合っているので何とか読み続けられた。当時は評判が良かったようで、何度か他社からも再刊された。「探偵実話」との副題で、実話に基づいたらしいが、警察関係者はあまり出てこない。推理小説というよりも犯罪小説になる。前半は老医者を殺して金を奪って逃げた夫婦とその恨みを晴らすべく画策する姪の話。後半は悪漢夫婦の娘の逆襲劇。善悪入り乱れての話の展開にはかなり不自然な個所もあるが、起伏に富んだ展開で面白かった。明治中期の人情や風俗描写も興味深い。☆☆☆
国会図書館デジタルコレクションを閲覧。水野年方による木版の単色挿絵が多数掲載。