(うらみのかたそで)1893年(明26)春陽堂が出していた袖珍探偵文庫シリーズの第12集。探偵小説が盛んに読まれていた時期に、力量のある硯友社の作家たちに文学的香りのする探偵小説を匿名で書いてもらうことを持ちかけたのが成功し、大いに売上を伸ばした。この作品は大正期の人気作家となった柳川春葉が駆け出しの頃に手がけたもので、元々は英国の小説を和風に翻案したものとされる。主人公の刑事(当時は探偵と言った)が一人称「余」の漢文調で記述するのは珍しい。しかも会話部分は口語なのでそれほど読みにくくはない。仕事で明日また顔を合わせる間柄でも「サヨナラ」と言い交わして別れるのも面白い。足を稼いで地道に調べ上げるテンポも快い。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は鰭崎英朋。