明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『新女夫塚』 安岡夢郷

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(しんめおとづか)1925年(大14)樋口隆文館刊。作者の安岡夢郷(むきょう)は講談師出身を思わせる語り口で文体がなめらかで読みやすい。時は元禄時代、大阪、難波新地の芸者お艶が質屋の御曹司を見染めたことが発端で、身勝手にも和歌山の在に駆け落ちする。彼らを探し出すことで一儲けを企む男女に加えて、様々な人物が入り乱れる伝奇的長編小説(上下巻)。良し悪し事をあれこれ考えながら行動する人間像をかなり上手に書き分けている。善人役のほうがむしろ無為・無策に見えてくるのも不思議だ。「悲哀情話」の副題の通り、すべてが勧善懲悪とはならないのも史実に基づいた物語だからか、読後の印象深さが後を引く。☆☆☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。歌川珖舟の口絵が付いているが、鬼気迫るものがある。

dl.ndl.go.jp

 

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