明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『明治の探偵小説』 伊藤秀雄

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結局、この一冊が明治時代の小説群への没入の道しるべとなった。漱石、鷗外、藤村をはじめ、露伴、独歩、蘆花、鏡花などの堅苦しい明治の文豪たちを長い間、敬して遠ざけてきたが、唯一、黒岩涙香の探偵小説だけはなんとか読めそうで親しめそうな書物に思えていた。著者の伊藤氏もその穴から入り込んで、明治時代の探偵小説群という地底の大宝庫を発見したのだと思う。維新後の出版技術の発展のお陰もあって、当時何万点もの書籍が盛んに発行され、広い意味での文学、小説、読み物の作者たちも少なくとも数百人は活躍していた。今やその大半の書物は目に触れることがない。多くの作家はその生没年さえ記録されずに、書目と名前だけが残されていた。本書は特に探偵小説というジャンルに的をしぼって多くの忘れられた作家と作品を発掘し、詳細な解説を施している。現在は「国会図書館デジタル・コレクション」の中に電子化されて、その大半を居ながらにして目にすることが可能なこともあまり知られていない。人にもよるが、それにのめり出したらキリがなくなる。この本はその読み漁りのための貴重なガイドブックであり、以後私にとっては座右の書となっている。☆☆☆☆☆

 

双葉文庫日本推理作家協会賞受賞作全集56

 

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