1913年(大2)磯部甲陽堂刊。これは英国の推理小説を三津木が翻訳したものだが、当時は原作や作者名を明記しない方が多かった。地名、人名も和風に言い換えている。文体はよく練れており、単純明快で読みやすい。しかしながら特に英国物は謎解きやトリック破りに重点が置かれ、人物描写や感情表現が淡泊で、どうしても物足りなさを感じてしまう。この事件では、一見何でもなさそうな「コルクのボタン」の発見から帰納法的に犯行を暴いていく手法は良く出来ており、楽しめた。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵なし。
※漢文調の表現抜粋:
《証拠品双互の関係、その証明、裁然(さいぜん)として一絲乱れず、天品(てんぴん)の推理力と、豊富なる学識との力は権風(けんぷう)を帯びて人に逼(せま)るの慨(がい)があった。》(P134)