明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『筑後騒動八百八猫』 浮世亭夢丸

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1918年(大7) 樋口隆文館刊。講談速記本の一つで怪談話の部類。正続2巻。演者の浮世亭夢丸は昭和期の関西の落語家の名前でもあるのだが、この本の出版はそれよりも年代が古く、まったくの別人と思われる。講談師としての情報は、明治末期から大正時代までの講談速記本数冊があるのみで、生没年も不明。江戸時代初期に九州の柳川藩を一時期支配した田中氏を横暴な君主として描き、その残虐な愚行の犠牲となった豪商一家の飼い猫が、猫嶽に住む多くの猫たちとともに妖怪変化を駆使してその怨念を果たす。田中氏は史実上でも嗣子がなかったためお家断絶となった。この地方には「猫城」という古い山城の跡も実在する。一国を支配する者の強権力に対しては少数個人で対抗しても到底かなわない。その復讐の手段として超自然的な妖怪・妖術が必然的に望まれることになる。個人的には普段はホラー物は全然読んでいない。現代人の感覚で言うとかなり陰惨な描写、グロテスクな表現を目にするのも怪談話ならではのことと思うが度が過ぎるようにも感じる。勧善懲悪とは人間の精神衛生上の必須項目なのだと思う。それは宗教的な「救済」に近いかもしれない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵の署名は英方?と読めるが該当者は不明。

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