1906年(明39)隆文館刊。黒法師も渡辺霞亭の筆名の一つで、続けて2作読むことになった。旧家の令嬢で両親の遺産を相続し、家令の献身的な奉仕で何不自由なく暮らしてきたヒロイン龍子は、結婚相手と心に決めていた男が別の女と結婚してしまい、嫉妬で自暴自棄になる。その夫婦仲を裂くために大金を使っても、とまで言い、通帳や印鑑を侍女に渡す。それが勝手に悪用され、ついには破産状態で路頭に迷う。彼女の人生観はロシア貴族のニヒリストを思わせ、最後は乞食姿で野垂れ死にを望むまでに至る。登場人物が少なく、情景描写や場面展開は芝居がかって見える。寓話的な話だと考えればそうなるが、最後の幕引きはあわただしい。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。宮川春汀の口絵だが、残念ながらカラー版の画像は今のところ見つかっていない。