1898年(明31)駸々堂刊。(びじんとぴすとる)探偵小説叢書28集。明治中期になると探偵小説が人気を集め、各社からシリーズを組んで盛んに出版されるようになった。欧米の推理小説に比べればまだまだ物語としての骨組みが稚拙だが、犯罪の発生から犯人の逮捕までの捜査の過程を読む楽しみが確立して行った。
探偵物を題材に取り入れた探偵講談本も多く売り出された。松林若円(しょうりん・じゃくえん)は松林派の講談師の一人で、当時渡辺義方という戯作者が絵入自由新聞に連載した漢文調の新小説を読みくだいた講談にして口演していた。それを速記して出版したものがこの作品になる。これこそ明治後期に急速に言文一致体による文芸が確立する基盤の一つになったのだと思う。
物語は鹿鳴館の夜会を終えて帰宅する途中の馬車への銃撃事件から端を発するが、事件の進展が取って付けたように継ぎはぎだらけで納得性がないのが残念。素材は面白いが磨き方が今ひとつだった。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は無し。