明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『姐妃のお百』 桃川如燕

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(だっきのおひゃく)1997年(明30)金桜堂刊。前後2巻。初代桃川如燕(じょえん)の口演を速記した講談本。1月から断続的に2カ月かけて通読した。姐妃(だっき)とは古代中国の殷王朝の王妃の姐己といい、その容色で王朝を滅亡させたと言われる人物。江戸時代中期の藩札をめぐる秋田騒動に絡んで悪事を企んだお百という毒婦に冠して呼ばれていた。彼女はまれにみる美貌を武器に次々に男を篭絡し、殺人、盗みなどの悪だくみの教唆を重ねた。物語は大阪、江戸、佐渡能登、酒田、秋田と広範囲に及び、一度は捕われて伝馬町に入牢し、佐渡島流しされた後に脱出し、秋田藩主の妾女に成り上るまでの波乱万丈の人生は、江戸期のみならず明治期にも人気が高く多くの類書が出された。読み物としてはこの初代如燕がまとめ上げた講談本が、細部にわたる構成も見事、語り口も流麗で大いに味読できた。☆☆☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は笠井鳳斎。

dl.ndl.go.jp

 

※美人の形容例文

《 年の頃(ころほ)ひは十九歳か二十歳位に見え、色白く、鼻筋通り、口元尋常、眼中涼やかにして、髪の毛黒く房々と致し、愛嬌は宛(さ)ながら飜(こぼ)れるばかり、春月の雲を拂ふて出でたる如く、実(げ)に之を指して嬋娟・窈窕(せんけん・ようちょう)の美人と云ふ小町、衣通(そとほり)も一歩下がらうと云ふほどの美人 》(百合=お百)後編・第七席

 

《 静かに襖(ふすま)を開いてハッと両手を突いたる一個の美形、頭髪(かみ)を三つ輪に取上げて鼈甲(べっこう)の簪(かんざし)、露の垂れたるが如く珊瑚の玉の簪美しく、丈(せい)はスラリとして中丈中肉、色飽くまでも白く、鼻筋とほり、口元尋常に致して眼中涼しく、頭髪(かみ)は黒く致して眉毛一文字、実(げ)にや春月の雲を拂ふて出でたる如く、沈魚・落雁・羞月・閉花(ちんぎょ・らくがん・しゅうげつ・へいか)の風情とは是れなんめり 》(遊女篠原=お芳)後編・第十席

 

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※研究論文の抜粋:

 明治前期刊行の実録の類には女賊、姦婦、夫殺しなどの所謂毒婦が登場することが多く、そういった読み物が芥川の造型する悪女にも多少なりとも流れ込んでいる可能性はある。

また明治前期に活字で流布した実録類は、物語内容は江戸期に書かれたものであり、時代設定もほとんどのものは江戸時代である。

芥川龍之介文庫の明治期実録本」奥野久美子(大阪市立大学)2016.03



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