明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『かくれ蓑:前代未聞』 池 雪蕾

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1906年(明39)春陽堂刊。前後2巻。池雪蕾(いけ・せつらい)訳。原作者は英国の小説家ウィリアム・ル・キュー (William Le Queux, 1864-1927)、 父親がフランス人だった。出版当時はなぜか「ラ・キューズ」と表記された。原題は「仮面」(マスク Mask)ロンドンで1905年に出版されたばかりで、雪蕾がすぐに翻訳にとりかかったらしい。身寄りのない可憐な女性は知的でたしなみもあり、主人公守雄の心を惹きつけたが、過去を一切語ろうとしない。偶然ある男の死に際に目にした文書に彼女の名前を見つけて、その過去の謎を解こうと奮闘する。宝石泥棒や遺宝探しなどをめぐって多くの人物が入り乱れるが、連載小説によくありがちな、不審な行動の連続で読者を振り回すことが延々と続く。唯一の救いは、翻訳というよりも翻案として、訳者が場所や人名を日本に置き換え、その土地(伊香保や須磨)の風光や伝説、和歌や俳句の紹介などを織り込んだ部分に味わいが出ていた点にある。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は村上天流。舞台化されたポスターにも流用されていた。

dl.ndl.go.jp

 

※諸言より

而(しか)して既に腐敗せる短調なる、旧式なる、我が明治文壇の如き、其の最も大いなる根本的革命を要する者の一つであらう。(---) これが腐敗せる明治の文壇に投ぜられて、愈(いよい)よ当って砕けた暁には、縦(よ)しや革命的爆裂弾の偉功は奏せずとも、必ずや留飲患者に一服の沸騰散(ふっとうさん)を呑ませた位ゐな効能はあるであらう。」盗笑軒主人雪蕾

 

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