明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『鬼が森』 堀内望天・訳

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1911年(明44)日曜世界社刊。タイトルと草履と和服の男の子の表紙絵から見て、日本の民話か何かだろうと思って読みだしたら、西洋の宗教訓話だった。作者はメアリー・シャーウッド(Mary Sherwood, 1775-1851) 19世紀英国の児童文学作家だった。年代的にはフランスの女流作家ジョルジュ・サンドに近い。原題は「小さな樵(きこり)と彼の犬シーザー」(The Little Woodman and his dog Caesar) である。明治期の翻訳物は原著者も書名も明記しない場合が多かったが、それは地名や人名を日本のものに置き換えて、場合によっては生活習慣も書き直すことが通例だったので「翻案」と考えられていた。広大な森の中に住む樵一家の末っ子孝吉は親を敬い、信仰心のある男の子だった。両親の死後、わがままな兄弟たちに邪魔者扱いされて深い森の中に置き去りにされる。彼の犬も後を追ってきて冒険の旅を続ける。抹香臭さがあるが、グリム童話風の味わいもある。文体としては説話類の方が言文一致で先行していて読みやすい。☆☆

 

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国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は原本の石版画の複写と思われ、署名が J.Knight(ナイト)と読める。版元は大阪でキリスト教関係の出版に携わった日曜世界社。

dl.ndl.go.jp

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