明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『流の白滝:毒殺事件』 橘屋円喬

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(ながれのしらたき)1893年(明26)日吉堂刊。橘屋円喬(たちばなや・えんきょう)は明治の落語家で、三遊亭円朝の弟子にあたる。語り口の名人ぶりは円朝に比肩するほどだったというが、速記本としてはこの一作しかデジタル・コレクションには見当たらない。これも江戸時代の物語だが、円喬の創作かと思われる。中山道の熊谷付近の街道筋で、駕籠かきとのトラブルで置き去りになった旅人と駕籠の中に大金を忘れた女、毒薬の包みを茶店に忘れた医者の三つの出来事から商人の毒殺強奪事件が発生する。話が動くのはそれから三年後の江戸で、その当事者たちが互いに関わり合って思いがけない仇討ちとなる。話の骨子は講談風だが、場面場面で落語特有のとぼけた掛け合いを織り込むのはさすが名人。白滝は女の源氏名。☆☆☆☆

 

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国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は作者不詳。

dl.ndl.go.jp

 

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1896年(明29)に朗月堂から、表紙(水野年方画)とタイトルを「月に叫谷間の鶯」(つきにさけぶ、たにまのうぐいす)に変えて再刊された。中身と口絵は前と全く同じものである。題の意味は内容と全く関係がなく、なぜそうして刊行したのかは意図不明。



《悪い事をする奴と云ふものは妙な智恵のある者で、尤も是は真の智恵と云ふのではないさうで、智恵にも正智といふのは宜いが奸智邪智などと申すと悪い事で人の気の附かないやうな事をする妙な智恵のあるもので・・・》(第二十三回)

 

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