明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『雲霧』 松林伯円

 

1890年(明23)金槇堂刊。「泥棒伯圓」という仇名を持つ講談師松林伯円(しょうりん・はくえん)による口演速記本。(まつばやし)と表記している場合もある。明治20年以降に定着する言文一致体を後押ししたのが、円朝や伯円の速記本だった。江戸中期の享保年間に雲霧仁左衛門を首領として各地を跋扈した盗賊一味が大岡越前守らによって捕縛されるまでの物語。雲霧は盗んだ財貨を仲間たちに分配し、それを元手に泥棒稼業から足を洗おうとしたものの、子分の何人かは悪行から抜け出せず、それが引き金となって一網打尽となる。子分たちの性分が書き分けられていて面白い。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は後藤芳景(よしかげ)。

dl.ndl.go.jp

 

 

《汝等(うぬら)二人は大それた亭主主人を後にして、道行(みちゆき)筋の横道も僅々(わづか)の間夫婦気取り、吾妻橋や夫婦石(めおといし)二ツ並べた枕橋、其の愉快(たのし)みの応報(むくひ)来て、因果は循環(めぐ)る三囲堤(みめぐりづつみ)、此処等(ここら)が死出の剣(つるぎ)の山、三途にあらぬ隅田川、果敢なき縁の世を牛島、供に白髪(しらが)と約束しても、白髭(しらひげ)までは行かれねへ、長命寺とは空頼み、枕団子に桜餅、散り行く花も心柄、憐れ回向を鐘ヶ淵、念仏称えて死去(しん)で仕舞へ・・・》(第七回)

 

 

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