1909年(明42)中川玉成堂刊。江戸時代の絵草紙や歌舞伎の錦絵で見知っていた妖術使いの主人公。実際どのような物語の持ち主なのかは知らないでいた。神田伯龍による講談筆記本。戦国時代の戦いで死んだ武将の遺児ではあるものの、御家再興の必命があるわけでもなく、信濃山中に山賊の首領として君臨するうちに仙人から妖術を伝授される。個々の挿話では遊郭がらみの話など締りがなく、目的性やストーリー性は弱い。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は鈴木錦泉。
歌川豊国による錦絵。
《万一役人に出会って八方より取り巻かれましても、愈々自分が危くなって召し捕われんと仕まっすると、直ぐに握鮓屋の亭主のやうに、右の手で指を二本握って、口の中で何か唱え言を致します。すると斯う忽ち身体が消えて無くなったり、又は雲に乗って飛び去ると云ふやうなことになります。》(第一回)