明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『黒闇鬼』 丸亭素人・訳


1891年(明24)今古堂刊。(こくあんき)原作者は明らかにされていないが、作風からするとボワゴベではないかと推察する。丸亭素人(まるてい・そじん)は黒岩涙香と肩を並べるほどの訳述者で、文体も似通っている。パリとその郊外の町を舞台に、田舎町に隠棲する高利貸の老人の殺害事件の捜査と美人で魅力的な寡婦との結婚を巡る男女の曲解やすれ違いを描いている。意外な言動に対する疑念や思い込みの応酬など、心の綾を描く割りには心理分析までの文学性はなく、あれこれと振り回される。当時のフランスの新聞連載小説(フイユトン)の特徴だと思う。☆☆☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。表紙絵・挿絵作者は未詳。

挿絵は結構大量に入っているが、「明治の探偵小説」の著者伊藤秀雄によれば、「絵入自由新聞」などに木版画挿絵を作っていた新井芳宗あたりではないか、と語っている。

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