明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『恋と情:探偵実話』 太年社燕楽

 

1912年(明45)矢島誠進堂刊。明治期の探偵実話を題材とした講談筆記本。前後続の全3巻。演者の太年社燕楽(たねんしゃ・えんらく)は大阪の講談師の長老格で本名は伊藤伊之助、それ以上の情報はほとんど不明。筆記本はあまり出ていないが、弁舌巧みで多少説教じみているが堂々とした語りである。

物語の前半は、娘を唆して横浜で質屋を経営する青年から資金を搾取する親の無軌道と青年の転落話。後半は高崎の大店の身代を乗っ取ろうとする男女の策謀。何れの場合も色の道で失敗させられる善玉の男たちを描きながらも、いかに失地回復の上に勧善懲悪に至るかを語り尽くしている。☆☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は歌川国松。

dl.ndl.go.jp

 

《当講演は実に恐るべき犯罪を敢へてし、而(さう)して社会の目を掠めて安逸を貪らんとせし天下の大凶漢も(・・・)敏腕なる刑事のために遂に其の罪悪の凝結(かたまり)たるものを捕縛すると云ふ、探偵の苦心談をば、単に一二探偵の功を録するに止めず、宏く社会ため、せめては社会教育の一端にもなれかしとに微意より、筆とる速記者に其の意を聴取させ、一片の冊子として発行する事に御座いますれば、唯その面白いと云ふ点のみに心を止めず、勧善懲悪の大意を御取収あらん事を発行所主と共に深く希望いたします。》(第一席)

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