明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『殺人倶楽部:探偵奇談』 コナン・ドイル 森蜈山・訳

 

1912年(大1)文成社刊。文成社は偉人伝、処世法、実用書などの出版物が多かった。森蜈山(ござん)による訳書はこの一点しか知られていないが、明治末期におけるホームズ物の翻訳の貴重な例証になっている。文体もこなれていて読みやすい。最初はタイトルが珍しいのでドイルの別の作品かと思ったが、読んでみると第一短編集「冒険」の3作品だった。どうして原題とは異なった題をつけたのかは不明。「殺人俱楽部」⇒「オレンジの種5つ」、「地下の秘密」⇒「赤毛組合」(訳文中は「紅髪結社」)、「写真の行衛」⇒「ボヘミアの醜聞」。地名は倫敦(ロンドン)の米架街(ベイカ)、ホームズ名は穂室静六(ほむろ・せいろく)になっている。☆☆☆



国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は鏑木清方とされる。

dl.ndl.go.jp

 

《彼は一世を驚倒せしめたやうな大疑獄を首尾よく解決して了ふと、何時も斯う云ふ。「あゝ御蔭でやっとまあ一時の退屈を紛らした。こんな小事件がちょいちょいあるので、少しは助かるが、実に僕の生涯は人生の平凡を逃れんとする長い奮闘だ。」》(書き出し)

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ