明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『野原の怪邸:探奇小説』 鹿島桜巷

1905年(明38)大学館刊。鹿島桜巷(おうこう)の最初期の著作と思われる。地の文は文語体で格調が高い。怪奇小説仕立ての探偵小説。松戸市郊外の河原塚に建つ怪しい邸宅をめぐる探奇譚である。この家に住む叔母夫婦を訪ねて来た書生の主人公は、その家が少し前から空家となり、夫婦の行方が知れず、化物屋敷のような奇妙な現象が起きていることを知る。彼は単身で謎を解こうとするが、探偵の知識も経験もなく、危機に瀕する。一番奇異に思うのは、悪だくみの一味の生活感の無さである。自分たちの基地を荒れすさんだ家に放置して、あたかも飲まず食わずで生存しているように見える。怪奇を作り過ぎた作者の盲点かもしれない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵・表紙絵は作者不明。

dl.ndl.go.jp

 

《老婆が語り出さんとする化物屋敷の話に、小間物屋も聞き耳立てて、床几に再び腰を下したり。並木にはつくつく法師の声うら淋しく、夕炊の煙暮色をさそひて遠く近く打靡(なび)く、田園の夕暮は早く秋めきたり。》(1妖怪屋敷の縁者)

 

 

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