1935年(昭10)朝日新聞社刊。週刊朝日文庫第1輯。昭和初期のレトロ感に満ちた東京の街並みの描写に心温かさを感じる。東京駅で呼び出しを受けた主人公が電話口に出ると先方で女性の叫び声が聞こえ、電話が切れる。発信元は有名ホテルだった。電話が貴重で交換手経由だった時代で、その通話をした部屋に行ってみると、女性の他殺体が見つかった。新米弁護士の主人公とその友人の新聞記者は、警視庁の担当刑事と時には競争し、時には協力しながら事件の解明に取り組んでいく。作者の語り口は明快で、謎の組み立て方に巧妙さが見られ、読み進む者を惹きつけるのだが、後から見るとやや凝り過ぎると思えるのは推理小説の宿命かも知れない。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は吉田貫三郎。元々は週刊誌に連載されたものと思われる。