明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『魔の池』 中村兵衛

 

1907年(明40)大学館刊。大学館という版元は冒険活劇から奇怪なミステリー風の読物に至るまで多数出版していた。これは東京の芝公園弁天池を巡る奇譚。日露戦争が勃発し、軍人たちには出征が目前に迫っていた。若い陸軍大尉は伯爵令嬢と結婚式を挙げる予定だったが、その当日、洋行帰りの謎の淑女の讒言によって突然延期となる。新郎新婦のいずれにも出生の秘密があり、嫡出子ではなかった点から混乱が起きる。

作者の中村兵衛は、生没年が不明ながら、関西中心に広く文筆活動をしており、その筆致も確かな作品が多い。しかしこの作品は彼の駆け出しの頃のものと思われ、筋の飛躍や構成の詰めの甘さが目立った。☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵作者は不詳。

https://dl.ndl.go.jp/pid/888274

 

《月朧(おぼろ)なる芝公園の弁天池、蓮の枯れた茎が水面に浮んでゐるを、丸山嵐の吹返しが、愚弄(なぐさ)むかのやうに嬲(なぶ)って居る。乾いた血の色の如き、黒赤い柏の枯葉が埋(うづ)高く池の樋口に溜ってある。奉納の額にある弁才天は、胡粉も剥げて了って、美しい貌が却って物凄く、夜の魔の神かと怪しまれる。》(弁天の池)

 

※参考ブログ:月のひつじ 中村兵衛 ~明治の作家~(2019.03.10)

https://tvc-15.hatenablog.com/entry/2019/03/10/005459

 

 

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