明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『白髪鬼:情仇新伝』 黒岩涙香

 

1893年(明26)町田浜雄刊。

1934年(昭9)春陽堂刊。日本小説文庫 No.349

1957年(昭32)光文社刊。黒岩涙香代表作集第2巻。

 

 原作は、イタリア風の名前ながらも英国人小説家のマリー・コレリ(Marie Corelli, 1855-1924)による『復讐(ヴェンデッタ)』で、1886年に発表すると評判になり、早速涙香によって翻訳された。人名は和名の読み替えだが、イタリアの地名がそのまま訳されている。涙香の代表作の一つとされている。文脈を読んで行く上では逐語訳に近い丁寧な翻訳と思われ、所々補足説明を加えている。

 ナポリ地方に代々伝わる羅馬内伯爵家の当主波瓢(ハピョ)は伝染病に感染して死亡するが、墓所に埋葬後に蘇生する。棺を破り、墓所の一角から抜け出るが、その恐怖から白髪の老人に変貌してしまう。自邸に近づくと、親友の魏堂と妻の那稲が抱き合い、波瓢の死を喜んで語り合うのを目にする。生前から密通していたのだ。ここから彼の復讐劇が始まる。筆致は「過ぎたるは」と言えるほど丁寧で、本人の心理描写、相手の心理の推量など細かな推移に満たされている。漢文調で格調高い涙香の文体は、緩慢になりがちな全体の流れを引き締めている。真綿で首を絞めるの例えのようにじわじわと迫る勢いは、原作者の筆力とともに涙香の語り口の見事さを示していると思った。しかし題材に深い恨みは込められているとしても明るい話題は見られず、読後に疲労感が残った。☆☆☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1693917

口絵は安達吟光。

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ