1955年(昭30)~12月、雑誌「小説俱楽部」連載。
1977年(昭52)講談社刊。
兵庫県の辺鄙な湯治場に建てられた供養塔は、そこに木製ながらも三つの首を納めたというが、その塔に財宝が隠されているわけでもなかった。ヒロインの音禰(おとね)は両親を早く亡くし、伯母の許で令嬢らしく育った。ある時、彼女は曾祖父にあたる米国在住の富豪の遺産相続人として呼び出されるが、そこには素性の怪しげな相続該当者が他に6人出席していた。その数が減れば取り分が増えるという理由からか、次々に殺人事件が起きて行く。物語はヒロインの「私」の目を通した一人称の手記の形式で語られる。謎の男に引き連れられ、逃避行を続けるうちに、彼女の心情は男に対する憎悪から愛慕へと変容し、若い女としての欲情の目覚めまでも細かに語られる。この辺の筆致は見事だと思う。
名探偵の金田一耕助も事件に関わるが、脇役的にしか現われず、まして謎解きの推理プロセスなどはほとんど明かされない。これだけの犠牲者が次々と出ることを防ぐ手立てを持たない凡庸な警察官と大差ないように思ってしまう。途中のエロ・グロの場面描写は乱歩のハチャメチャに比べれば抑制されているように感じた。プロットは少々ひねり過ぎた感があるが面白く読み通せた。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790612/1/86
https://dl.ndl.go.jp/pid/12570645/1/57
雑誌連載時の挿絵は富永謙太郎。