
1957年(昭32)8月~1959年(昭34)4月、雑誌「小説俱楽部」連載。
1959年(昭34)桃源社刊。
戦後昭和期に書かれたサラリーマン小説。主人公小牧の勤める会社はワンマン社長の経営の行き詰まりから倒産に直面していた。幸いにも大阪の会社から資金援助を受け、危機を脱したが、その会社から送り込まれた隅田という人物が経営の実権を握る。その横暴さは公私にわたり、小牧の社内恋愛の恋人も秘書に取られ、ついには愛妾にされてしまう。半狂乱となった小牧は隅田の失脚を画策するが、平社員の無力感に絶望する他なく、隅田を殴って退職する。

一般論で、多くのサラリーマンも会社組織の中での権力構造に起因する悲哀を体験しないではいられないのだが、その類似感覚への共感を呼び起こさせてくれた。その先の結末には溜飲が下がる思いになるが、オールハッピーにはなりえない現実の苦味を感じた。ドラマ的な場面展開が小気味良く、当時すでに正続2本に映画化されている。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790631/1/64
https://dl.ndl.go.jp/pid/1358422
雑誌連載時の挿絵は下高原健二。
単行本の装幀・カバー絵は佐野繁次郎。

《しかし、バカといわれようが、今更、後へ退くわけにはいかないのである。世間には、自分のような男も一人ぐらいは、いた方がいいのだ。でなかったら、あの隈田を、ますます、増長させるだろう。そのために、泣く人間が、更にふえてゆくことになるに違いない。小牧には、それが我慢出来ないのであった。しかし、そう思いつつ、小牧は、自分が背伸びするような無理をしようとしている気持を禁じ得なかった。社会正義の美名のもとに、私怨を晴らそうとしているのだ、といううしろめたさであった。》(十)
