1954年(昭29)桃源社刊。「江戸恋い双六」という副題がついている。
1959年(昭34)2月~1960年(昭35)3月、雑誌「小説倶楽部」連載。
幕末期の江戸の大店の遺産相続をめぐる連続殺人サスペンスという異色作。直参旗本の次男坊の鶴木伸介が主人公だが、剣戟の場面などはほとんどない。
大店の老主人平戸屋磯右衛門が急死して、そこに嫁していた美乃は莫大な遺産を相続する。実は彼女が以前御殿女中として勤めていたときに伸介との結婚話があったのだが、彼が水戸浪士との関係を疑われて出奔したため、沙汰止みとなっていたのである。彼が江戸に戻って来たのを機会に恋情が復活するが、資産家となった美人後家に近寄る魔の手は少なくなかった。
トリックの組立てが巧妙に出来ていて、作者の得意とする若い女性の揺れる心理描写は定評通りで、謎解きのプロセスも明快で楽しめた。☆☆☆
単行本出版のほうが年代が古く、旧カナ使いになっているのに対し、「小説倶楽部」の連載のほうが5年遅いので、再連載だった可能性がある。
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1660816/1/3
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790466/1/119
雑誌連載時の挿絵は志村立美。