明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『世界風流艶笑譚』 石井哲夫(風流隠士)

世界風流艶笑譚:石井哲

1950年(昭25)4月~1951年(昭26)12月、雑誌「富士」連載。

1955年(昭30)妙義出版刊。(スマイル・ブックス)

世界風流好色譚:沢田正太郎・画1

当初「富士」連載のタイトルは『世界風流好色譚』となっていた。好色譚という面からも作者名は匿名とわかる風流隠士(いんし)を名乗っていたようだ。この原作と作者探しには半日以上費やした。いちばん類似するバルザックの「風流滑稽譚」とその訳者小西茂也を疑ったが、バルザックよりも年代が新しい話があるし、各話の内容が合わなかった。

世界風流好色譚:沢田正太郎・画2

ネタ本が何なのかは今のところ不明だが、翻訳の堅さを感じさせない軽妙洒脱の文体は読んでいて快適だった。明治期の涙香物などの事例と同じように、人名だけを和人漢字名に置き換えて親しみやすくしている。作者も明治生まれの人に違いない。単行本の類書を当たるうちに石井哲夫という実名(?)で、同じ内容の話を収めている標記の本が見つかった。彼の生没年など詳細は不明だが、戦中期には講談倶楽部、少年倶楽部などに冒険小説を書いていた。またインドを舞台とした小説や評論も出していた。(昭和~平成期の自閉症研究の権威だった石井哲夫氏とは別人)

世界風流好色譚:沢田正太郎・画3

好色譚とはいえ、男女の情愛心理のアヤを描くのがメインなので、後年のポルノまがいの小説ブームとは趣きが異なるのは明らかで、オトナの童話なのだ。沢田正太郎のピカソ風のおどけた挿絵も秀逸で、まだ連載全体の半分までしか読んでいないが、味読する楽しみが続いている。単行本としては別にもう一冊となる。☆☆☆☆

世界風流好色譚:沢田正太郎・画4

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1355066

https://dl.ndl.go.jp/pid/3561680/1/142

雑誌連載時の挿絵は沢田正太郎。

 

 

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