1950年(昭25)1月~12月、雑誌「富士」連載。
これもNDLデジタルで戦後雑誌(一部)の閲覧・通読が可能となって読むことができた作品だった。大庭さち子(1904~1997)は戦中期の作品もあるが、戦後特に少女小説の分野で旺盛に活動し、翻訳や少年少女向けの偉人伝、リライト作品も多い。大人向け小説としては、雑誌「富士」などに長短編を書いたが、なぜか単行本として出版されることはなかった。編集者の努力は別として「富士」の雑誌としての人気度もあったかもしれない。
大阪の堂島にあるバーの妖艶なマダム蘭子は、製薬会社の社長の妾として甲子園の高台に瀟洒な家を持たされ、趣味に絵筆を揮っている。彼女はすべてにおいて自信に満ち、行動力もあって、店に通う男たちを思うように引きずり回す。彼女と対比して描かれるのは、京人形のような冷静さをもった出戻りの美人で、今後の身の振り方に何の感情も持たず、居候を続ける。他に貧しい生活ながら心強く生きる女事務員の姿、玉の輿にあこがれる奔放な娘など、女性作家の目で、多様な女性の生きざまを丁寧に描き分けていた。やはり男たちを振り回す強烈な個性の蘭子の存在は印象的で、女同士の感情の対立を経た心境の変遷に迫真感があった。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/3561675/1/143
挿絵は中野淳。
「結婚前のお嬢さんは、男の一面より知らない。いはば、男に美しい虹をかけてゐるんだ。その虹をほんたうに七彩の橋だと思って、結婚するから、結婚が恋愛の墓場になるんです。虹はいつかは消える。」(夜ふけの客)
《サンマー・タイムの九時はまだ宵の口である。場末の町には、狭い道の両側に露店が並び、涼みがてらのひやかし客が雑沓してゐた。》(ひろがる波紋)