明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『美しき果実』 十和田操

美しき果実:十和田操

1947年(昭22)3月~1948年(昭23)5月、雑誌「令女界」連載。

1948年(昭23)、真光社刊。

 

美しき果実:十和田操、三芳悌吉・画1

終戦直後、大陸からの引揚者たちの群れの中に幼い男の子を連れた若い娘がいた。彼女の名前は美雨(ミグレ)といい、引揚げの途上で父母ともに病死してしまい、孤独の身となった。同じ身の上の孤児の男の子の面倒を見る決心をして、列車に乗り、父親の郷里である岐阜の村落を生れて初めて訪ねることになる。やっと到着した村には親戚は全く見つからず、父親も孤児としてその村にある養育園で育ったことがわかる。美雨と男の子はその養育園で暮らすことになる。物語のその先はヒロインの苦労話なのかと思いきや、途中からその養育園の歴史やら、関係者たちの昔話を聞き出すことがメインとなり、進行が停滞してしまった。回顧の感興はそれぞれしみじみとした味わいで淡々と語られるのだが、筋立てに工夫が見られなかった。☆  

 

美しき果実:十和田操、三芳悌吉・画2

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/3565896/1/7

https://dl.ndl.go.jp/pid/1339368

雑誌連載時の挿絵は三芳悌吉

単行本の表紙絵は林唯一。

 

美しき果実:十和田操、三芳悌吉・画3

「けれど、悲しくなったときには、こう、なんていいましょうか、誰か一人は恨む相手のようなものが居ないと、その悲しみは、ぶつかるものがないから、どこまでも、どこまでもつづいていって、おしまいには自分のからだと命と一しょに死神がきて引き取っていってしまうかも知れませんでしたので、わたくしは、そんなことのないようにと、父の信じていた漢文の神様を恨むことにしたのです。」(神のみわざ)

 

 

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