明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『ミイラの招待』 戸川幸夫

ミイラの招待:戸川幸夫

1958年(昭33)和同出版社刊。

動物文学者としてのほうが有名な戸川幸夫(1912~2004)は戦後昭和期に幅広い分野で作家活動を行った。この作品は探偵活劇仕立てになっている。

東京の奥多摩にある日原鍾乳洞を見学に行った仲良し三人娘が、洞窟内で白骨死体を見つけたことから事件が始まる。その死体の一部がミイラ化していたという珍現象の真相を、彼女たちは突きとめようと素人探偵を始める。一番のヒロインは地元の中学校教諭の久美子であり、夏休みを利用して軽率にも変人の博物学研究所に臨時の助手として入り込む。白骨死体の顔の復元には新聞記者や刑事が絡んでくる。警察犬候補だった二匹の飼い犬も登場し、消えた人物の追跡に活躍する。一部擬人的に二匹の犬の会話の様子を書いていたのも面白かった。なぜ湿気の多い日本で、しかも山奥でミイラを作ろうとしたのか、その犯人の意図は理解できなかった。ヒロインの身に迫る危機やアクション場面で盛り上がるのに加えて、ユーモアも加味されて一応楽しめた。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1668656

 

《山は人間を親しくする。都会にあっては一つの部屋で一時間面つき合せていても、話もしないだろう人々も、山では気楽に話が出来るのだった。》(日原川の辺りで)

 

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