1955年(昭30)雑誌「小説倶楽部」に「顔のない女」を掲載。
1980年(昭55)桃源社刊。(ポピュラー・ブックス)全6篇。
表題作を含め、全6篇の短編集。『犯罪蒐集狂』は侠客を先祖に持つ探偵大前田英策ものの一つ。デパートの閉店間際に毎日やって来てスリッパを一足ずつ買っていく謎の男が、ある日その売場で射殺されるという事件。『顔のない女』は女探偵川島竜子が捜査警部を縦横に操りながら事件を解決する。彼女は若い身空ながら亡き夫の後を継いで探偵事務所を切り盛りするというスマートな女傑である。全体的に英米風のドライな語り口で、トリックも二ひねり程度で楽しませてくれた。☆☆
単行本には、日本で初めて「イラストレーター」と名乗ったという長尾みのる(1929~2016)の興味深いイラストが入っていて、印象的だった。
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790612/1/143
https://dl.ndl.go.jp/pid/12559170/1/3
雑誌掲載時の挿絵は成瀬一富、単行本のイラストは長尾みのる。
「だが、犯罪者というものには、往々にして、奇妙な露出癖があるものだよ。自分の構想というものにすっかり酔ってしまって、ほかのことは一切忘れてしまうんだね。場所が賑やかなところになればなるほど、方法が手品みたいに巧妙であればあるほど、成功した場合の優越感を予想して、危険や何かは考えなくなって来るものだ。」(犯罪蒐集狂)
「僕としては、君たちが納得してくれるような証拠をそろえて眼の前につきつけるしかどうにもしかたがないんだよ。安楽椅子によりかかってパイプをふかし、神様のような推論をもてあそぶのは、決して僕の畑ではない。こっちの本領は実行だ。肉弾体あたりの精神だ。」(犯罪蒐集狂)
『なるほど、毒も使いようで薬になるというがねえ。犯罪科学というものは、いったい犯罪を捜査するための科学か? それとも犯罪をおかすのを助けるための科学だろうか?』(顔のない女)