
1955年(昭30)東京文芸社刊。正続2巻。
ひと言で言えば相馬中村藩のお家騒動をめぐる伝奇小説。藩主重胤が重病の床についたので、世継ぎ問題が表面化した。娘の琴絵姫に婿を取るか、弟の長十郎に譲るか、御落胤の柳太郎を探し出して呼び戻すか、の三案が考えられた。
最も説得性のあるのが御落胤なのだが、藩の江戸家老はそれを暗殺しようと試み、自分の息子を身代わりの御落胤に仕立てて御対面させようとする。柳太郎は身を守るために女装して目をくらませたり、叔父にあたる盗賊の蜘蛛六に助けられたりする。大目付の遠山景元やその影武者の神尾左近、岡っ引の彦三、女賊の稲妻お妙、悪役の剣客近藤一角など、多彩な登場人物が次々と現われては消え、また新手が登場するなど目まぐるしい。その相関関係を描くだけで長尺となってしまうのだが、悪役たちの狡猾でしぶとい立ち回りには存在感があった。☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1644630/1/3
初出「東京タイムス」連載時の挿絵は土端一美。

この小説は同年に東映で映画化された。柳太郎には中村錦之助が主演となり、悪家老進藤英太郎と対峙するのだが、原作中の登場人物は多過ぎるため、大幅なスリム化を行ったようだ。喜多川千鶴は仇っぽい女賊お妙のイメージが土端一美の絵と一致しているように思えた。

「おっと、色の話はぬきにしようぜ」
蜘蛛六は、お妙の心底を見ぬいたように、つめたい笑いを浮べていた。
「慾は慾、色は色――そこんところをはっきりしねえと、まとまる話もまとまらねえのさ」(蜘蛛の糸)
