
1959年(昭34)文芸春秋新社刊。
1960年(昭35)角川書店、角川小説新書。
1961年(昭36)東都書房刊、現代長編推理小説全集第4巻(有馬頼義集)所収。
戦後復興期に建てられた高級アパートで、住人の美女が謎の死をとげる。元情夫の男は気まぐれから女性を自殺に見せかける工作をする。警察も不審死から自殺の線に落ち着く。この同じ階に住む12人のほとんどが、様々な職業の男女ながら、銀座のバー「ダーク・ムーン」の常連という顔見知りだった。
物語では、殺人事件というよりもその不審死の背後に隠された真相を手さぐりするように探究する。推理小説にしては展開が緩慢なのだが、それは個々の人物の過去や生き様や心の動きを丁寧に描き分けている部分が多かったためでもある。点在するように配置された各個性の相関関係が幾何学模様のように見えてくる。ミステリーよりも風俗小説に感じられた。謎の解明が間延びしても人間関係の味の深さに読み応えを感じた。☆☆☆

1959年1月に松竹で映画化されているが、あくまでも殺人事件の謎解きを筋立ての中心に置くために、人物を少数に絞り込み、ミステリーとしての作品に手直しされていた。つまり小説本来の人間関係性は自ずと稀薄になったと思われる。

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1358410
https://dl.ndl.go.jp/pid/1356111/1/6
「若さがほしいよ」と英五は言った。「目に見えるものを信じ、手に触れるものをつかみとろうとする若さが、僕にはない」(三一六号室の女・七)