明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『無惨卜伝流』 南條範夫

無惨卜伝流:南條範夫

1959年(昭34)1月~6月、雑誌「小説倶楽部」連載。

1959年(昭34)新潮社刊。

 剣聖塚原卜伝が生み出した新当流についてはその教えを受け継いだ門人たちが分派として広がり、毎年鹿島神宮に集って武芸大会を開くのが盛んに行われていた。しかし卜伝の直系の嗣子は不思議なことに代々女性しか生まれず、婿入りすることで嫡統を名乗ることができた。そのためには大会で優勝する事が条件とされ、その年は六人の剣士が名前に上っていた。

無惨卜伝流:南條範夫、御正伸・画1

 いつの世にも狡猾な姦計を画策する者がいるもので、その中から一人ずつが次々と殺害され消えていく。あるいはその濡れ衣を家名にかけて辞退させたりする。その悪巧みを容易に懲罰できるほど世の中は甘くなく、むしろ流派全体の衰退に到る結末がリアルだった。

 

 単行本にはその他3篇の短篇が併収されていた。いずれも寛永御前試合に関連する勝負事だが、「身替り試合」での奇縁の展開と結末、「破幻の秘太刀」での勝負を前にした剣客の心理の動揺と変容は、巧みな構成で面白かった。☆☆☆

 

無惨卜伝流:南條範夫・御正伸・画2

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1790465/1/27

https://dl.ndl.go.jp/pid/1647720

雑誌連載時の挿絵は御正伸。

 

無惨卜伝流:南條範夫・御正伸・画3

《ばかなっ、と叱っても。いかん、と押えても、自分の心が、その黒い眸に吸い込まれ、覆いつくされてゆくのを、如何ともし難い。不動一心、生死不二――と、鍛え澄ましたつもりのますらお心も、阿由女のなよやかな姿を一瞥すると、陽に当った泡雪のように、たあいもなく融けてゆく。》(明眸罪あり)

 

 

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