
1960年(昭35)小説刊行社刊。
1960年(昭35)雑誌「小説倶楽部」にダイジェスト版掲載。
作者の長谷川公之(1925~2003)は医大を卒業後、警視庁の法医学室で勤務した経歴があったが、その後映画脚本家としての活動に専念した。1956年からは東映でシリーズ化された「警視庁物語」全24作の脚本を担当した。当時はまだテレビよりも映画が人々の娯楽の中心で、このシリーズも人気を博し、年に2~3作のペースで作り続けられた。

この本にはその11作目の「遺留品なし」と12作目の「深夜便130列車」のノベライズされた中篇2作が収められている。警視庁の捜査一課の六~七人の刑事たちの地道な捜査活動を、セミドキュメンタリー風に描いている。捜査の糸口が途中で切れてしまったり、回り道をしたりという無駄の多い非効率な仕事を、現実的に淡々と書いていく筆致には独特の味わいがにじみ出てくる。彼らの行動には常に気力や熱意があふれ、真面目過ぎる点が気になるが、人々が生活のために一生懸命生きていた時代の心情が伺える気がする。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1358955/1/3
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790481/1/125
雑誌の挿絵は河本正夫。

《須貝は、すっかり平静な気分を取戻しているようであった。そうすればそうする程、ドライと云おうか、人を喰ったような素振りが目立って、一時騒がれた、戦後派の世代を代表する性格に思われて来るのだった。》(遺留品なし)
《結婚相談所から結婚相談所へ、林と高津は歩く度毎に手帳のメモを一つ一つ削って行った。すでに足どりは重く、大げさに云えば、足に鉛をつけたカルタゴの奴隷のようでさえあった。》(遺留品なし)

*参考:Youtubeに当時のロケ地と現在を比較紹介する動画がある。昭和30年代の風俗や風景が新鮮に感じられるのも不思議だ。
旧作日本映画ロケ地チャンネル
警視庁物語 第11作『遺留品なし』
警視庁物語 第12作『深夜便130列車』