
1959年(昭34)8月~1960年(昭35)5月、雑誌「小説倶楽部」連載。
1960年(昭35)東都書房刊。
南條範夫による珍しい現代物の青春恋愛小説。大学を卒業したてのヒロイン陽子は明るく快活な性格で、友人同士では太陽から「サンちゃん」という愛称で呼ばれる。製薬会社に就職するが、源氏鶏太のサラリーマン小説と似たような月並みな生態になじんでいく。陽子は自分の信念に従って行動するが、それが昔親が決めた許婚者(いいなづけ)の男との訣別であったり、学生時代の親しい男友達との訣別であったりする。社内の切れ者の課長への一途な恋情を募らせていく過程や心境の変化が温かい目で描かれていた。そして人生における成功と失敗のどちらであっても貴重な収穫であり、その人の軌跡であることを実感させられた。☆☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790474/1/25
https://dl.ndl.go.jp/pid/1648213/1/1
雑誌連載時の挿絵は下高原健二。

《片岡は、そうした噂を耳にしないのか、いつもの冷厳な態度を少しもくずさず、忙し気に飛び廻っている、それが憎らしくて――にも係らず、憎み切れずに、陽子は、自分で自分の心をもてあました。自分の胸に、刃物を突き刺して、思い切りひっかき廻してやりたいような苦しさであった。そうすれば、刃物の痛みが、今の苦しさを消してくれるだろう。》(悲しみと悦びと)
《恋愛と結婚――当然、一つに結びつくべき筈のものが、現実には、殆ど凡ての場合に、極めて微妙な、無数の問題を含んで、若い人々を悩ましているのだ。あっさりこの二つを分離して考えてしまえば、簡単だ。だが、それを容易に出来る種類の人と、そうでない人とがいる。》(江見の結婚)