
1948年(昭23)5月~12月、雑誌「富士」連載。
1948年(昭23)世界社刊。
終戦直後の混乱期の世相を反映する伝奇ロマン。多様な要素が盛り込まれていた。戦中には偉業を称えられた軍の将官が一介の老爺に身を落とし、娘と共に出身地に隠棲し、晴耕雨読に勤しむ。一方、成り上がり政商の息子は親の思惑の政略結婚に反抗して、愛する娘の許に走る。風光明媚な瀬戸内海の塩飽(しわく)諸島を舞台とするラブロマンス劇かと思いきや、一転して、付近に隠匿した膨大な軍需物資の行方をめぐる欲望と猜疑心の入り乱れる活劇に変わる。島の漁師親子もその騒動に巻き込まれ、さらには妖艶な美女が両天秤にかけた男たちの間を巧みに渡り歩く。なかなかの展開だった。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/3561661/1/16
https://dl.ndl.go.jp/pid/1708649
雑誌連載時の挿絵は富永謙太郎。

《しかし今や終戦とともに、戦功は恥辱の同義語となり軍人は憎悪の的となった。隆一郎は、既にその前から、(…)多数部下の無残な戦没や遺族の悲歎に接しては、戦争の拡大に深い疑雲を懐いて、人知れぬ呵責と、憂悶に悩んでいたその矢先に、応召中の愛児隆吉の消息も絶え、終戦と同時に自ら隠棲して、余生を、懺悔と、部下の冥福にさゝげる堅い決心をしたのである》(父と父)
《山も浅く樹木も若かったが、寺の周囲には稀に大きな松杉の老樹が仰がれた。古びた島の寺は、その中に、南画のやうな古雅な寂に沈んでゐた。が、振返って眼下の展望に眼を放つと、それは明るいセザンヌの風景画だった。》(愛の旅人)

※同じように終戦直後の旧軍需物資の秘匿と転売に関わる小説