明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『女優殺し:探偵小説』 無名氏

女優殺し:無名氏

1907年(明40)大学館刊。

 表紙の傍題に「二六新聞懸賞小説」と表記されているが、作品コンテストではなく、いわゆる「犯人当てクイズ」の懸賞付きだった。解決篇の直前に応募締切後の「怪しい人物」の投票結果が掲載されている。それを見ると、真犯人は本命から大きくハズレていたので、新聞社や作者としてはニンマリと満足だったに違いない。しかも伏線があるので、納得性も十分だった。投票総数は3万通を超えており、そこそこの人気だったようだ。

 

 これは英国小説からの翻案と思われる。例によって原作者は不明。「倫敦」以外の地名や登場人物名はすべて和名に置き換えられ、想定する手がかりすらない。地方の名士奈古子爵が寵愛する女優萬里子が、夜道を馬車で通るところで銃撃されて死亡する。地元の警察署の二人の刑事が張り合って捜査を競う。萬里子を妬んでいた同僚の女優の色仕掛けや、子爵家の財産を狙う悪党一味や、一族の隠された遺児の存在など、人物の多様な動きと筋の展開の巧みさに原作者としての力量を感じた。翻案した著訳者も無名氏=匿名のままだが、文脈の確かさを見れば、かなりの作家だと思った。座右のバイブル『明治の探偵小説』(伊藤秀雄)にも書名は見当たらなかった。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/886779

 

 

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