明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『秘密島:怪奇小説』 鹿島桜巷

秘密島:鹿島桜巷

1907年(明40)大学館刊。

 大学館という版元はその名前とは違って、趣味娯楽書、実用書、家庭小説、探偵小説、冒険小説といった当たりの柔かな書籍の発行が大勢を占めていた。その常連作家の一人、鹿島桜巷(かしま・おうこう、?~1920)は茨城県鹿島神宮宮司の家系に生まれ、地方紙の記者を経て作家となった。若い頃は探偵小説や冒険小説を書いてそこそこ親しまれたが、大正期の晩年は情念を掘り下げた手応えのある作風となった。また、幕末の志士たちにまつわる史伝なども高く評価されている。

 

 この小説は「怪奇小説」と銘打っているが、押川春浪並みの海洋冒険小説三部作の第一篇だった。日露戦争中に旅順沖で日本海軍が捕獲した謎の運搬船があった。ロシアの船と思われたが、乗組員は全員逃亡し、船内で飼われた犬一匹を除けば無人だった。軍はこれを「不知火丸」と名づけ、輸送船に転用したが、戦後民間に払い下げることにした。その入札を妨害する謎の集団が出没し、新しい船主は生命を脅かされる。さらにその船の中から瀕死の美女が見つかり、蘇生に努めた結果、その女性から教えられた謎を解明するために、退役大尉を船長として「秘密島」を目指して出帆する。初篇はミステリー活劇仕立だが、構想の広がりは感じられた。地の文は文語調の名残りがあって、格調高いが、達意の文体と感じられた。次篇は『怪島探険』、終篇は『秘密航海』。☆☆

 

秘密島:鹿島桜巷

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/887989

口絵作者は未詳。

 

 

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