明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『死頭蛾の恐怖』 甲賀三郎

死頭蛾の恐怖:甲賀三郎

1935年(昭10)春秋社刊。

1935年(昭10)1月~6月、雑誌「日の出」に『死頭蛾の恐怖』を連載。

 

 昭和日報の新聞記者、獅子内俊次が身体を張って活躍する事件。彼については以前読んだ『姿なき怪盗』の事件でも登場している。目に見えない謎の致死病の正体を突き詰めて行くプロセスが卓越した筆さばきで描かれていた。昭和初期の下北沢(世田谷区)が、当時は材木置き場や成金実業家の邸宅などとして事件の舞台となっていたのが個人的には親近感を覚えた。確かに造化の妙で、死頭蛾の模様は髑髏に見えるのだが・・・☆☆☆

 他に連作集『暗黒紳士』、短篇『血染の裸女』、『臨終の告白』を収める。

 

Death moth tatoo @shutterstock

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1689762/1/3



『例へば――そうぢゃ、君は死頭蛾といふ蛾を知ってをるか。』

『知りません。』

『さして珍らしい種類ではないが、幼虫はぢゃがいもの葉を食ふのぢゃ。ごま、なす等の葉も食ふがね。成虫は背中に髑髏の斑紋がある。日本では「めんがたすヾめ」などと呼んでゐるが、英語ではデスス・ヘッド――つまり死人の頭で、直訳すれば死頭蛾ぢゃ。髑髏蛾といってもいい。』(死頭蛾の恐怖)



《第一印象といふものは大切なもので、且つ可成正確なものだ。一眼で相手を見抜くことは、新聞記者として大切な事であり、さういふ力を修得するやうに努めて、第一印象の正確さを強める事は絶対必要だ。僕は第一印象の正確さを些か誇りとしてゐるが、高林に始めて会った時には、実に嫌な気持がした。それと同時に恐るべき奴だと感じた。僕は誰に会っても先づ相手を呑んでしまふことを心がけてゐる。無論それを明らさまに態度や言葉に現はしてはいけないが、心のうちでさうしてゐる事は必要だと思ふ。》(死頭蛾の恐怖・好敵手)



《他の事には短気な獅子内も、一旦仕事となると別人のやうな根気を出すのだった。世上では彼の成功を、専ら彼の機敏さと、豪胆と、一流の押強さに帰してゐるが、それは当らない。彼にはいつでも正義観にもとづく熱情と、鉄のやうな意志とがあったのだ。》(死頭蛾の恐怖・闇を衝いて)

 

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