明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『秘密の宝:探偵奇譚』 三原天風(守田有秋)

秘密の宝:三原天風

1914年(大3)日吉堂刊。

 作者の三原天風(みはら・てんぷう)の名前は、大正初期に大人気の出た仏映画『ジゴマ』のノベライズ本や探偵活劇の著者として知られる。しかしそれは陰の顔であり、表の顔は守田有秋(もりた・ゆうしゅう、1882~1954)という評論家、翻訳家であった。守田は二六新報の記者を経て、戦争論や自由恋愛論の著作、そしてシェークスピアからデュマ、ホフマンスタールに至る広範な翻訳書も出している。

 

 この『秘密の宝』というタイトルの意味は、満州にある老鉄山の虎来窟という洞窟に清朝歴代の宝庫が隠されているという、宝捜しの話なのだが、そこに至るまでの前置きが長かった。巻末には構想の元となった小説として、ルブランの『奇岩城』とル・キューの『白衣』の名前を正直に挙げている。設定を借用したとは言え、「自働車」が登場したばかりの日本の環境に上手に融け込ませて書いている。ルパンに似せた怪盗を南城三郎、奇岩城に似た巣窟を突きとめる医学生を湯地正雄として、前半は令嬢の誘拐や金庫の機密文書の盗難など、怪盗対探偵の対決が続く。

 

秘密の宝:三原天風

 後半にはガラリと様相を変えて、辛亥革命直後の中国の袁世凱の命を受けた外交官がドイツとの秘密条約を締結する動きと日本の外務省の下部組織がそれを阻止する動きとの抗争になる。この本が出版されたのもその時期であり、満州国建国の策謀共々、まさにホットな話題だった。

 あまりにも偶然過ぎる暗号文書の発見と解読も浮いてしまうが、ルパンはだしの計略の鮮やかさは面白く描かれていた。☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/912214/1/3

口絵作者は未詳。

 

《成程(なるほど)、小生は一個の盗賊に過ず候へども、然し乍ら、貴嬢を思ふの熱情に至りては、決して人後に落るものに無之(これなく)候、貴嬢よ、恋に上下なく、恋には正邪善悪の差別なし、恋は始めより純にして、終りまで純なるものに候、されば小生の人物を論じ給ふな、小生の盗賊なりと云ふ事実を考え給ふな、唯だ一個の青年南城某(それがし)としてお考へ下され度。》(四十八・何故小夜子を帰したか)

 

 

ja.wikipedia.org

※《然れども、我がジゴマの筆者三原天風は、曩(さき)に同じ二六紙上に聖マグダラを書きたる守田有秋その人たるに於て、何人か意想外の観に打たれざろものあらんや、》(未来を有する少壮記者列伝、其三・二六新報記者守田有秋~「新公論」1913年4月春季倍號)

https://dl.ndl.go.jp/pid/11005498/1/63



 

 

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