明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『愚弟賢兄』 佐々木邦

愚弟賢兄:佐々木邦、田中比左良・画

1942年(昭17) 大都書房刊。

1953年(昭31) 大日本雄弁会講談社刊。

佐々木邦(くに、1883~1964)は日本のユーモア作家の草分けとも言われ、明治末期から大正、昭和そして戦後まで、長年にわたる作家活動を続けた。

 

愚弟賢兄:佐々木邦、田中比左良・画愚弟2

 この『愚弟賢兄』は最初、昭和初頭の1929年に出版されたが、田中比左良の挿画とともにその後戦中期、戦後期に繰り返し再刊されている人気作だった。主人公の語り手は成績がパッとしない大学生で、成績優秀で頭の良い兄からはいつも「お前は馬鹿だ」と言われ続けて育った。ここにタイトルの「愚弟」と「賢兄」の由来がある。「どうせ俺なんか」といったひねくれた諦めを含んだ期待感や人生観が語りに現われており、作者はそうした人物像を軽妙に書いている。主人公の卒業試験から就職活動、そしてお見合いまで、昭和初期における青年の日常を淡々と描いているが、現代風俗とは根本のところでは変わっていないように思われた。☆☆

愚弟賢兄:佐々木邦、田中比左良・画3

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1121056/1/2

https://dl.ndl.go.jp/pid/1643266/1/3

口絵・挿絵は田中比左良。

 

 

※この作品は戦前(昭6)と戦後(昭28)の2度、松竹で映画化されている。

https://www.cinemaclassics.jp/nomura/movie/71/

愚弟賢兄:松竹(1953)「婦人生活」1953.07

当時の雑誌「婦人生活」(1953.07)での紹介記事の写真はまるで田中比左良の挿画そのもののような言葉が入っていて興味深い。

 

 

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