明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『ハートの3』 高橋筑峰

ハートの3:高橋筑峰

1916年(大5)春江堂書店、冒険叢書第7.8編、前後2巻。

 大正初期に数多く輸入上映された米国製無声映画のノベライズ本のようにも思えた。原作者名も明記されておらず、活動弁士が語るような記述になっている。高橋筑峰には講談の速記者という経歴もある。

 物語の背景は米国紐育(ニューヨーク)とカナダ(加奈陀)。恋敵の乗った自動車に轢かれて不具の身となった男トラウンが、激しい憎悪と復讐心を持ってその男と息子アランを殺害しようと画策する。トラウンには娘が二人いるが、妹のローズはアランを愛するようになったのに対し、姉のジュディスは父親譲りの執念をもって家令たちの助勢を受けながら追撃する。カーチェイスやら、放火、鉄道事故やら、水難等々、よくも次から次へと危機が襲来するものかと、無声映画の荒唐無稽さに通じるアクションの面白さであった。タイトルの「ハートの3」の由来は下記に抜粋した。☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/905896

https://dl.ndl.go.jp/pid/905897/1/2

口絵作者は不詳。

 

ハートの3:高橋筑峰

《認(したた)め了(をは)った紙面に現れた数行の文字は、頗(すこぶ)る簡短(てみじか)であるが一読慄然として言々句々、凄惨の極みで且つ執念の深刻なる、寧(むし)ろ恐れ戦(おのの)く外はない。(…)骨牌(かるた)の中より抜き出したハートの三點の牌(ふだ)を西班牙(スペイン)製の鋭き洋刀に突き貫いたまゝ、小さき小函に入れて、この手紙に添えて、ウェンリングトンの許に贈るべく、》(二・ハートの3)



《ハートの三點は、物の最終最後を意味するとは骨牌を弄ぶ人の洽(あまね)く知る処で、、其最終を示すハートの三の札に、洋刀を刺し貫かれた贈物ある時は、其人の生命を飽まで呪ひ奪はねば止まぬと云ふ意味だ、これを贈られた者で、生命を完ふした人は、嘗てこれまで一人もないとまで、言伝へられて居る、文明を以て誇りとする欧米人にも恁(こん)な迷心はあるのだ。》(四・双生児の出産)



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