
1938年(昭13)皇文社刊。
戦中期の抑圧された時期にさしかかる頃の出版。短篇小説一つだけの小冊子だった。地方の町や村を巡業する旅回りの一座。客の入りは芳しくない。女優の百合子のもとに家出をしてきた少年信吉が現われる。彼は百合子に年上ながらも慕情を抱き、近くの町から公演に通い詰めていた。彼女は少年の愚挙をたしなめ、弟に対するように諭すのだが、駅にはなぜか大勢の警官がいたので、車を雇って峠越えに付き添う。しかし一座の男優が少年の持つ札束を見かけて悪巧みをしようとする。少年を助けようと無意識に身を挺した女の行動には人間味の尊さが感じられた。悪事がいかに露顕して応報を受けるのかも伏線つきの納得性のある筋立てで味わえた。☆☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1091304
挿絵画家は不詳。