
1952年(昭27)東成社刊。(ユーモア小説全集第9)
長いタイトル。戦後の大阪を舞台とした二人の女子大生と独身助教授との恋愛感情の絡み合いと変容を描く。米川水絵と小溝田鶴子は仲良しだが、水絵は老舗菓子屋の令嬢で、一方の田鶴子は貧しい境遇で授業料も滞納していた。演劇仲間の男子学生唐木の紹介で、田鶴子は高額アルバイトの話に乗ることにした。それは美術写真のヌードモデルで、若い実業家のカメラ道楽のためという。その話を聞いた水絵は田鶴子に思いとどまるように忠告するが、田鶴子は唐木に見張り役を頼んで、撮影場所に向う。問題は写真が展示された後に起こる。彼女は学校側から退学を迫られるが、助教授の奮闘による身の潔白が証明されて元の学生生活に戻る。この小説は1953年に大映で映画化された。☆☆

併載の中篇『天使も夢を見る』も大阪の製薬会社の社会人野球チームの二人、太田黒英夫と淀川良平の友情と恋の芽生えを描く。病気療養中の社長の家に用心棒として交代で宿直するうちに、社長令嬢への縁談を断わる材料として淀川が偽の恋人役としてデートに割り込む。これらの作品が書かれた頃は終戦から5~6年しか経っておらず、自由思想の風潮が芽生えていたのは確かだが、人々の心中には戦中期の暗い経験が刻まれていた。若者でも軍隊からの復員という過去が数年前の事として記憶していたのがここでも描かれていた。この作品も1951年に松竹で映画化されている。☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
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カバー絵は宮田重雄。

《青年らしい、明るい横顔だった。その美しい横顔を、水絵は見遁さなかった。素晴らしいと思い、やっぱり好きだと感じた。相手が先生であれ、その相手が自分をどう思っていようと、自分がその人を心のなかで好きだと思うのを、誰も妨げることも咎めることも出来ないのだ。と思うと、彼女の胸は、変に切なく、かなしくなってきた。》(或る晴れた日に)