明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『薔薇の木にバラの花咲く』 芝木好子

薔薇の木にバラの花咲く:芝木好子

1958年(昭33)6月~1959年(昭34)8月、雑誌「新婦人」連載。

1959年(昭34)光文社刊。

1966年(昭41)東方社刊。

 

 タイトルは「薔薇ノ木ニ 薔薇ノ花サク ナニゴトノ不思議ナケレド」という北原白秋の詩に拠っているという。ヒロインの女子大生藜子(れいこ)は空襲で親を亡くし、親戚に預けられて育った。大学に進んで学資を自分一人で賄う努力をしたが、生活は苦しかった。彼女には姉の銀子がいたが、離れ離れで暮らすうちに姉は酒楼で身を持ち崩し、連絡は途絶え気味だった。友人の紹介で富豪の家庭教師の口を紹介され、境遇の違いを思い知らされながらも、学資を稼げる好条件に満足しつつ、貧乏学生にはこれまでうかがい知れなかった上流社会の人々の生活ぶりに順応していった。その豪邸に出入りする人の中で、建築設計士の叶冬彦との出会いは彼女の心を揺るがした。特に軽井沢の別荘で夏休みも家庭教師を続けることになって同行した時、叶青年も現われ、彼の別荘へと誘われる。彼も財閥の御曹司だったのだ。

 

薔薇の木にバラの花咲く:芝木好子、竹谷富士雄・画

 ヒロインは苦学生として独力で生活を維持しながら、つましく生きてきたが、身分の異なる社会に住む青年から好意を寄せられたことにむしろ当惑する。感情の高ぶりと現実的な格差のギャップに苦しむ。持てる人々の世界に何も持たない貧しい女が到底入って行けないという畏怖の念だろうか。二人のうやむやな感情の中で、叶青年は欧州留学へ旅立ってしまう。女にとって心の支えとなる人がいるのといないのとでは大きな心情の振幅があるものだ。就職の内定を得て展望が開けるようにも感じられるのだが・・・

この小説は1959年に大映で映画化された。☆☆☆

 

薔薇の木にバラの花咲く:大映(1959)

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/11399106/1/61

https://dl.ndl.go.jp/pid/1647924/1/3

https://dl.ndl.go.jp/pid/1650373/1/3

雑誌連載時の挿絵は竹谷富士雄。

 

薔薇の木にバラの花咲く:大映(1959)

《不幸な記憶と暗い影を負って歩いてゆく自分に、彼女は滅入る時があった。明るく耀(かがや)かしい家系と、豊かな環境に育った人間には窺うことのできない深淵を抱いた人生に、藜子は幾度となく絶望した。》(暗い影)

 

《黎子は自分の声を自分で遠くに聞いている気持だった。一人の人間の魂の形成にはさまざまの過去の累積があった。彼女はその時から否応なしに独りで歩く道を用意された。誰も頼らない、ひとりでやっていく、そのために彼女は大学のコースまでよこばいながらも歩いてきた。》(ある告白)

 

「男はどんな立派な人格でも、男でしかないわ。それでいいのよ。女が男を愛したり、尽したりするのに、他にどんな方法がある? 身を投げて愛してゆくしかないじゃないの」(旅への誘い)

 

 

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