
1954年(昭29)8月~1955年(昭30)5月、雑誌「読切俱楽部」連載。
1955年(昭30)東方社刊。
タイトルとしてはメロドラマ風なのだが、作品としては乙女チックな純愛物語だった。代議士令嬢俊子が思いを寄せる苦学生省吾はアルバイトとして毎晩火の用心の夜回りで家のそばを通るのだが、親からは固く交際を禁じられ、心を焦がす日々が続く。彼女は親の政略で、実業家の御曹司との結婚を強いられていた。苦学生の省吾は彼女の家とは戦前親しく交際していたのだが、戦後父親が戦犯として処刑されたのを機に、手のひらを返すように疎遠になっていた。

ある夜、舞踏会帰りの俊子の車が辻強盗に襲われ、同乗していた御曹司は勝手に逃げ去ったところへ、火の番の省吾が現われ、彼らを撃退し、自分も腹部を刺されたが、無事に俊子を救うことができた。強盗は逮捕され、省吾は入院したが、翌日病室を訪れたのは、犯人の妹と称する美人女性で、なぜか献身的な見舞を続けるのだった。・・・

箱入り娘が意にそぐわない結婚を強いられたとき、服従するか、家出するか以外に取る手段はない。自分では何も出来ないことを身に沁みて実感するのだが、当時はまだ生きる選択肢が限られていたのだろう。恨みを抱く謎の美女の行動は回りくどいのが返って凄味が薄まってしまった。☆

なお雑誌連載の最後に「東映にて映画化決定」という告知が載っていたが、企画段階で中止になったものと思われる。
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1723016/1/153
https://dl.ndl.go.jp/pid/1644227
雑誌連載時の挿絵は成瀬一富。
《年頃は二十一二であろう、華やかなドレスの臙脂(えんじ)が、雪のように艶やかな肌の白さを引立て、溌剌とした弾力にみちた嫋やかな全身の線に香り、気品よく整った端麗な顔立ちには、やゝ冷たさの難はあるが、匂やかな眉の下に微笑む、今にもぱっと燃え立ちそうな情熱に霑んだ深い眸と、輝く豊かな額のあたりに、言い知れぬ魅力を湛えて、周囲の着飾った女性群を圧していた。》(舞踏会の夜)