明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『夜歩く』 横溝正史

夜歩く:横溝正史

1948年(昭23)2月~ 雑誌「男女」連載。

2016年(平28)角川文庫

 最初は偶然、NDLのデジタルコレクションに収容されたプランゲ文庫中の戦後雑誌「男女」を覗いているうちに、横溝の「夜歩く」の初出記事の最初の数回分を読めることがわかった。この「男女」という雑誌については、おそらく終戦直後の泡沫雑誌の一つと考えられ、長くは続かなかったようだ。横溝作品については、昭和末期に一大ブームを成したこともあり、NDLなどでデジタルで閲覧できる作品は皆無に近い。それだけ現在進行形で流布している感じがする。従って図書館から文庫版を借りて、読み続け、読了した。

雑誌「男女」(1948年)

 岡山県の山中に広大な土地を所有する旧家の古神家には、先代亡き後、当主の守衛と八千代、それに未亡人のお柳が、東京郊外の小金井にみどり御殿という屋敷に住んでいた。そこに家令として代々仕える仙石家の老人鉄之進とその息子の直記が家族同然に暮らしている。ここに首無し死体という陰惨な事件が起きるのだが・・・

夜歩く:横溝正史、高羽敏・画1

 物語の語り手は直記の友人だという三文作家の屋代であり、「私」という一人称記述の方が、三人称記述よりも視点が限られ、事件の全貌が見えないことも納得性がある。一般論で、名探偵の助手役が語りを担当し、その推理や認識が及ばない点を名探偵がサラリと解決してくれる。ここでも金田一耕助が、見かけは颯爽とは見えなくとも犯人を追いつめる。

夜歩く:横溝正史、高羽敏・画2

 この作品での問題は、首無し死体だからといって、身体つきの似通った二人の人物のどちらか見分けが付けられず大いに混乱するという前時代的な手法と、夢遊病者の頻出などであり、更には語り手が故意に隠して語ろうとしなかった事実の存在で、これには柔道の大技で投げ飛ばされる感覚があった。しかし語り口の細やかさ、感情表現の明瞭さなどには感服した。☆☆☆

 

夜歩く:横溝正史、高羽敏・画3

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/8825958/1/35

連載時の挿絵は高羽敏。

 

《いまどきこんな事をいふと、読者諸君にわらはれるかも知れないが、まったくそれこそ、昔の草双紙にでもあるやうな、妖しい悪夢にみちみちた、妖異と邪知の殺人事件で、そこには血統の呪ひといふやうな古めかしい匂ひさへ感じられるくらゐである。》(古神家の一族)



 

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