
1954年(昭29)1月~7月、雑誌「読切俱楽部」に連載。
1954年(昭29)東方社刊。
終戦直後の特異な愛の姿を描く。主人公は苦学生の慎吾。同郷で同大学に通う雪子と親しいが、名士令嬢との経済環境には大きな落差がある。彼は就職が内定しているが、授業料の滞納で卒業が危うい状況にある。下宿の隣部屋に引っ越してきた若い娘真知子と顔見知りとなるが、実は彼女は街娼として暮らしており、時々男を部屋に連れ込んできたりした。

ある時、慎吾が風邪をこじらせて寝ているのを見舞うと、医者を呼んだり、高価な薬を与えて懸命に看病するのだった。また彼の滞納金の件を知ると、紙幣を揃えて用立てて、卒業に間に合うようにしてくれた。彼らの関係は清らかなままで、慎吾は彼女に大きな恩義を感じた。しかし真知子の金策は客の持っていた高級腕時計を換金したことが判明して、彼女は逮捕され、少年院へ送致されてしまう。・・・

終戦直後は、街娼に身を貶めるしか生きていけない所まで追い込まれた女性たちが数多くいたのも確かだが、苦学生への献身的な行動も、人生に何の頼りとするものを持てない女としては、一つの生甲斐だったのかもしれない。ただ余りにも個々の生き様の素地が違っていた。☆☆
単行本には他に中篇「この涙父には知らず」を併収。
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1723119/1/20
https://dl.ndl.go.jp/pid/1643727/1/3
雑誌連載時の挿絵は伊勢田邦彦。